その針が指し示す時
山を降りて学園に着く頃には空は赤く染まりはじめていた。
学園の敷地に入った瞬間に感じられる感覚に、顔をしかめながらも歩を進める。
ふと、以前に佐藤さんが指摘した時計を見ると、針の位置が『0時01分』になっていた。
その位置から針が動く様子は無く、ただその場所を指し続けている。
それは、今この世界に起きているであろう事を考えてしまえば、そういうことなのだろうと思う。
この針が指し示しているのはきっと、残された者の数、とかそういったことだと。
この考えが合っているかどうかは分からないし、もしかしたら、この町以外の場所は、普通の日常が続いている可能性だってあるだろう。けれど、恐らくこの考えが近いものであることは間違いないだろう。
今更、気づいたところで対処出来る理由にもならないし、そもそも気づいたところで何が出来たのだろうとも思う。
けれど、この事にもっと早く気づくことで、この数日間の行動も変わってきていたかもしれない。
今となっては、全てが手遅れだった。
これ以上深く考えることはせずに、今はただ約束の屋上へと向かう。
階段を登っていく度に、心臓の音が早くなっていく。
これから起こる事は、俺にとって最後であり最大の出来事になるだろう。
これは、いつからか忘れていた感情にも良く似ていて、大きな不安と緊張と、ほんの少しの期待が入り混じったような、そんな思いを胸に、屋上の扉の前に辿り着く。
震える手を押さえつけるように軽く深呼吸をして、扉を開くと、そこには周囲全てが赤く染まった場所が広がっていた。
そういえば、屋上へ来るのははじめてだったかな、なんて思いながら、屋上の中心に人影を見た。
もう、誰も居ないはずのこの場所で、人影というのは一体どういうことだろうと、一瞬混乱していたところで、声をかけられた。
『時間通りだね、といっても、もう動いている時計なんて無いかもしれないけれど』
その声は、この数日間で聞き慣れた声で、この時まで一度も姿を見ることが出来なかった、佐藤さんのものだった。