6日目の覚悟を空に
目が覚めると、いつも通りの天井があることに安堵した。
大丈夫、何も不安に思うことは無い、まだ佐藤さんのことも覚えている。
元々そう騒がしい家では無かったが、今は本当に誰も居なくなってしまった。
とても静かで、自分の発する音以外の音はしない。
家の外で雪が静かに降り積もる音だけが、微かに聞こえてくる程度だ。
軽く食事を済ませると、一緒に作った物を持って外へ出る。
もしかしたら、この家にはもう帰ってこないかもしれないと思うと、少し思うところもあるけれど。
それでも、自分の家だ。昨日巡った場所達とは違うのだ。
だから、今はただこの言葉だけを……。
「いってきます」
――学園に向かう前に一度、この場所を眺めたいと思い、山を登る。
それほど大きい山では無いけれど、雪が積もっている状態で登るような場所では無いと、途中で少し後悔しそうだった。
周囲の木々も、地面も、空さえも白く染まっている。
ただ上を目指して進む。大切な友人が最後に向かった場所であり、学園だけではなく、町全体を眺めることが出来る場所へ。
――見下ろす景色は、全てが白く、美しく、それでいて冷たかった。
とても優しいものではなく、全てを覆い尽くす為のものでしかなかった。
けれど、この景色こそが今、この町の姿である。
この間とは随分と変わってしまったなと思いつつ、少しの間だけ、この景色を眺めることにする。
今日、夕方になってしまえばもう逃げることは出来ない。
もしかしたら、佐藤さんの元へ行かなければ、少しだけ選択までの時間を伸ばせるかもしれないが、それは今も頑張ってくれているはずの佐藤さんを裏切ることになってしまう。
それにきっと、もう自分の中では選択するべきは決まっているはずなのだ。
それを確信する為というのも、この場所へ寄った理由のひとつだ。
どうして、こんなにも佐藤さんを裏切りたくないのか、犠牲にしたくないのか。
それを考えてしまえば、自ずと答えはやってくる。
つまりそれは、そういうことなのだろう。
いつだって、この感情はいつの間にか芽生えていて、消えてしまった記憶が無意識に罪悪感を募らせて。
最後だから、なんて言えないけれど。もう貴方は居ないのだからなんて言えないけれど。
でも、俺は俺の選択をして、選択肢には無い選択もして。
何を選ぶかは、俺自身が選ばなければならなくて。
だから、白く染まったこの町の景色を見下ろしながら、宣言するように。
「さぁ、最後の選択をする場所へと、赴こう。覚悟は決まった。
自身の最後を使ってまでここまで導いてくれた友人達に恥じない為にもきっと、俺は間違えない。」
――いつしか空は晴れ、差し込む日差しに、積もった雪が弾けるような小さな音を響かせる。
そして、それ以上の言葉を発することもなく、この場所を去る。
行き着く先はどれも暗闇かもしれない。
だとしても、もう後戻りは出来ないのだ。
行こう、その場所で佐藤さんは待っている。




