ひとり
一人に……なってしまった。
佐藤さんは、最大限の力を使って、二つの選択肢を与えてくれた。
その二つを簡単に表現するのなら『この世界に残るか、残らないか』ということになる。
ただし前者を選んでしまった場合、リスクを伴う事になる。
記憶の一部を失ってしまうということだ。
それによって、何が起こるか分からない。
せっかく世界に残ったというのに、自分から命を断ってしまう可能性だったあるのだ。
それでも、この選択肢には、些か理不尽さは足りないように思える。
どちらかを選ぶ余地があるのだから。
だからそれは、佐藤さんが与えてくれたチャンスだ。
一度目の選択の時も助けてくれたという佐藤さんが、もう一度チャンスを与えてくれたのだ。
だからこそ、しっかりと考えなくてはならない。何を選ぶのか、何処へ向かうのか。
これからどうするべきなのか。
佐藤さんがあの時一体何をしたのか、分からないけれど、あの時、額に何かが触れたのはきっと、確かだ。
それに、あの強い光。あんなにも強い光を、佐藤さんと過ごした時間の間には見たことがない。
つまりそれは、特別なことであったのだろうと思う。
結局の所、俺はほとんど何も知らないのだ。
それに、知っていたはずのことさえも忘れてしまった。
自分自身のことでさえ――俺は。
知らないうえで、自身の進むべき道を選ばなければならない。
さぁ――まずは、何処へ行こうか。
白く染まったこの町を歩きまわるのは、少し大変だけれど。
ひとつひとつ、見ていこう。
学園の方を振り返ると、ここからは何も変化が無いように見える。
危険だと言っていた佐藤さんだが、一体、何が起きているというのだろうか。
そのまま、学園の敷地に入ることはせずに、歩き出す。
まずは、佐藤さんと一緒に行った場所を、順番に巡っていこう。
最後には、この場所に戻ることになるだろうけど。
その時、俺はどちらを選ぶのだろう。