つながり
そうして、俺が覚悟を決めたところで、佐藤さんは息を深く吐き、語りかける。
「最初に私の話をしてもいいのだけれど、きっと柳のことが今は一番気になってるだろうから、柳のことから説明していくね」
「分かった」
気遣ってくれているのだろうか、もしくは、本当に話したいことは言いづらいことなのか。
それは分からないけれど、今一番衝撃を受けて、気になっていることは柳に起きた現象についてなのは間違いない。
あの時なにが起きたのか、そして、佐藤さんは何を知っているのか、まずはそれを知りたい。そう思った。
「あの時、柳の身に起きたことを、簡単に説明するのなら、その他大勢にも同じように起きた――この世界からの消失」
「世界からの消失?」
「そう、文字通り、この世界から存在そのものが消えるの。体が消えるだけじゃない、まるで最初からいなかったみたいになるの。私みたいに、昴や仙華から見られることもない。ある意味私が異質な存在なのは変わらないけれど、それはまた後で話すよ」
存在が、そこに居たという事実から消えてしまう。それはどういうことだ?
この数日で色々な物を見てきた、だというのに、受け止められない。
――いや、そもそも今まで起きたこと、見てきたことだって、ちゃんと受け入れられたわけじゃない。目を背けて、見ないようにと、逃げていただけかもしれない。
「昴――キミは、キミの父と母のことを、覚えてる?」
「え……」
「名前でも、顔でも、ちょっとした仕草でも、好きな食べ物でも、なんでもいい。覚えているかな」
「最近、話すことがほとんどなくなってたんだ、顔なんて、ちゃんと見たのなんて、いつだったかも分からない。でも昔は多分、仲が良かったはずなのにな……」
「そっか……でも、おぼろげでも、些細なことだとしても、それを覚えている時点で昴はすごいんだよ」
「そう、なのか?」
こんなことで、すごいなんて言われても、何も嬉しくない。
俺は、親のことすらしっかりと覚えていられない人間なのだと、自分が嫌になってしまうだけだ。
だけど――
「普通、ほとんどの人は、そもそも何も覚えていられないの」
「何も覚えていられないって、どういうことだ?」
「言ったとおり、何も覚えていられない、その存在が消えてしまったら、関わった者達の記憶から消えてしまう。誰も思い出せなくなる。そして、そんな人は誰も知らなかったことになる」
その言葉を聞いた瞬間、背中を何か気持ちの悪いものが這い上がってくるような、奇妙な感覚に襲われた。
恐ろしいと、きっと俺は、恐ろしいと感じたのだ。この感覚は、妙にリアルなホラー映画を見た時よりもずっと恐ろしい。
こんな話しを信じろと、佐藤さんはいうのだろう。正直、今からでも冗談だと言ってもらいたい。
けれど、佐藤さんは冗談は言わないような人だと思う。
それに、この話しはきっと、序の口で、これから話す内容に必要な、準備段階だ。
これ以上の衝撃を、俺は受け止められるのだろうか……。
佐藤さんが本気で話しをしているのだから、今度こそ、本気で。正面から受け止めなければならない。
今はまだ少しだけ、心が痛むだけなのだから。




