隠された記憶
一体、何が起こったのだろう。
何か佐藤さんが言っていたような気がしたけれど、ほとんど頭から抜け落ちてしまっていた。
光は想いの強さだけ強くなるとか、そんなことを言っていたような気がする。
目の前で起きたことが衝撃的であり、とても綺麗で、儚かったから。
「ねぇ、昴……。柳は一体、何を伝えたかったんだろうね。私は最後まで、あの子には好かれなかったから、分からなかったなぁ」
呆然と立ったままでいると、佐藤さんが話しかけてくる。
しっかりと名前を出しているというのに、どこへ向かって話しかけているのか分からない。
短い時間だった。この誰もがいなくなっていった世界で、ただひたすらに、強い想いを持って現れた柳。
本能なのか、それともどうしても伝えたいことがあったのか、もはやそれは分からなくなってしまった。
元々猫であったのだから、難しかったかもしれないけれど、時間をかければ、可能だったかもしれないから、気づいてあげられなかったのが、とても悔しい。
今の今まで、柳が消えてしまったことに頭が対処しきれず、混乱してしまっていたが、少しだけ落ち着いてきたのもあって、この静かな空間に耐え切れなくなり、佐藤さんに思い浮かんだことを聞いてみることにする。
「もしかして、佐藤さんは柳がこうなること、知っていたのか?」
「ううん、知らなかった。でも……あの現象のことは、知ってるよ」
「それって、さっきの光か」
「そうだよ」
柳をあんな風にしてしまったのが、佐藤さんではないということに、安堵しつつ、もう一方の疑問が出てきてしまった。
確かに気になるが、聞いてもいいのだろうか。
柳が消えた瞬間、佐藤さんが口にした、憎しみのこもった声。そのことが引っかかってしまい、強く出ることが出来ずにいた。
「そんなに遠慮しなくてもいいのに。元々、話すつもりで待っていたんだよ? それに、柳が消えちゃったのも、完全に無関係じゃないと思うの」
「そう……なのか?」
「うん。だからさ、私の話を聞いてくれるかな? まだ、昴に話せていなかったことがあるんだよ。
それは、私が失っていた記憶で、そのことに、私自信さえ気づくことができていなかったことだから」
その後佐藤さんは付け足すように「私、昴が思ってくれているほど、善人じゃないもの」なんて、少しだけ寂しそうにつぶやいていた。
その言葉が、今までたったひとりで生きてきた人生で、育まれてしまった感情なのかと思うと、少し悲しくもなった。
それとは関係無く、ここまで秘密にに迫るためのお膳立てをされて、断ることなどありえない。
心の中で覚悟を決めて、佐藤さんのいるであろう方向を真っ直ぐと見て、軽く頷きながら、告げる。
「聞くよ、全部。佐藤さんのこと、教えて欲しいんだ」




