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思い出の場所

 胸元に柳を抱きかかえながら、歩きにくい雪の道を進んでいく。

 転んでしまえば柳を潰してしまう可能性もあるので、慎重になるが、それが余計に歩みを遅くしていた。

 

 それにしても、佐藤さんに何があったのだろうか、倒れたばかりなのだから、体調も不安だ。

 目指すのは学園にある、教室。特別なはずだった場所。今はもう、覚えていないけれど。

 その場所に、佐藤さんはきっといる。

 誰もいなくなってしまって、全てが銀色に染まった世界で柳と共に、その場所を目指す。


 何時間経っただろうか、もしかしたら、それほど時間は経っていないのかもしれないけれど、重い足を上げて進み続けていると、目的の場所が見えてくる。

 普通はありえないほど積もった雪は想像以上に体力を奪ってきて、ここまで辿り着くまでに相当疲れてしまった。

 恐らく明日は筋肉痛になるだろうな。なんてことを考える余裕はまだあったので、少し安心する。


 学園の敷地内に入ると、特有の違和感が全身を包む。

 この学園の中では時間が止まっている、そう認識している。

 もちろんそれが真実かは分からない。本当のことを知っている人はきっと居ないのだろう。

 学園の敷地内は、何故か雪が積もっていなかった。それ以外の場所は雪が異常なほどに積もっているというのに、本当に不思議な場所だ。


 校舎の中に入ると、体が自然と、道を知っているかのように動いた。

 その感覚に身を任せて、廊下を進む。

 早く柳をしっかり休ませてやりたいし、未だ待っているであろう佐藤さんの元に一刻も早く行きたい。

 そんな逸る気持ちに流されないようにしなければ、きっと目的の場所にはたどり着けないと、そんな気がした。


 廊下を進んでいると、いつか見たはずの、綺麗な夕日が窓から見ることが出来た。

 それはとてもおかしなことで、外は雪がずっと降っているはずなのに、どうして夕日が見えるのか。

 そんなことを考える余裕もないほどに、そこから見ることが出来る夕日は綺麗で、見とれてしまいそうだった。

 とても魅力的で、足を止めてしまいそうだったけれど、それは今この瞬間にしてはいけないことで、今はとにかく、体に身を任せて、目的の場所にたどり着かなくてはいけない。


――いつか誰かと共に来たはずの場所。

 その場所に、辿り着いた。

 ずっと忘れていた。いや、今も忘れているのだろうし、全て思い出せてはいないのだろう。

 けれど、やっと来ることが出来た。

 きっとこの教室で、佐藤さんは待っている。

 何の目的があって、この場所に来たのかは分からない、けれどきっとこの場所で。この場所だからこそ、何かがあるのだと、全身が震えるほどに、伝えてくれていた。

 いくら記憶を失っても、大切なことは体が覚えているのだから。


 深呼吸をして、胸元で柳の体温を感じながら、教室の扉に手をかける。

 そして、深呼吸をしても収まることなく震えていた手が、教室の扉を、開いた――

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