人と猫
雪の積もった道はとにかく歩きづらく、少し油断すれば足が上がらなくなってしまいそうだ。
普段はそれほど遠くない学園までの距離は、とても遠く感じられて、次第に疲労が溜まっていった。
学園を目指しながら、歩いていた途中、あることに気づいた。
いつの間にか、柳が居なくなっていたのだ。
あんな手紙を見せられて、焦っていたのかもしれない。
けれど、どうして気付かなかったんだろう。
このどうしようもなくおかしくなってしまった世界で、ほとんどの人間が居なくなって、柳にとって大切な、黒百合仙華という人間も居なくなってしまった。
そんな中、柳は頼ってくれていたんだ。俺達に。
「探さないと……」
見つけなければならない。いつの間にか見失ってしまった友人のことを。
同じ人間では無いけれど、言葉を交わす事は出来ないけれど、紛れも無く友人として過ごしたんだ。
今この瞬間を、選ばなければならない。
両方を同時に選ぶことは出来ないのだ。
どちらかは優先され、どちらかは後回しにされる。
悩んでいる暇なんてなかった。
今、この瞬間に選んだのは――柳だった。
待っている。そんな佐藤さんの言葉を、都合よく、信じる事にした。
こんな時ばかり伝えられた言葉をそのまま信じるなんて、思うけれど。
小さく「ごめん」と呟き、誰にも届くことのない言葉は雪に吸収されて消えていく。
とはいえ、どちらも諦めるつもりは無い。
未だに、嫌な予感は続いている。
急いで柳を見つけなければならない。
そして、柳を見つけたらすぐに学園へ向かい、佐藤さんに会いに行く。
方針を決めたところで、来た道を戻る。
視界は白く染まり、前を見るのが大変なほどだ。
道を戻ると、積もる雪の上にまだほんのりと人間のものでは無い足あとが見えた。
残っている足あとが消えてしまうのは、時間の問題で、上に雪が積もってしまえば、何も残らない。
重い足を意地で進めて、柳の元へと急ぐ。
柳のあの白い毛は、雪の中に紛れてきっと見つけるのが難しい。
だから、ひたすらに目を凝らし、見逃さないようにする。
「……柳!」
放つ声が一瞬、つまってしまった。
一面真っ白に染まる雪達の中、柳は予想よりもずっと近い位置に居た。
――その白い体で、雪の中に紛れ込むかのように、横たわって。
一瞬、力が抜けてしまった足に無理やり力を込めて、柳の元へと向かう。
もう少し遅くなっていたら、見つけられなかったかもしれない。
涙目になりつつ、柳の上に積もった雪を払って、その雪のように白い体を抱き上げる。
その体にはまだ、ぬくもりがある。
まだ柳は、生きている――生きているんだ。
その事実に、安心した。
少しでも温かく、そう思って、柳を自分の胸元へ抱き寄せる。
少しだけ身動ぎをした柳だったが、俺も譲る気は無い。その後柳は諦めた様子でおとなしく抱かれていた。
胸元で柳を抱えつつ、その場に立ち上がる。
「ここからなら、学園のほうが近いな」
今居る位置を確認して、深くため息をした後、柳と共に学園を目指す。
――でもその時の俺は、柳を見つける事が出来た事に安心して、気づいていなかったんだ。
どうして人間以外の動物には、この場にいる柳以外、出会うことがなかったのかということを。