束の間の戯れ
――結果から言うと、ひとくちだけだが、佐藤さんにあーんするという行為を成功させることが出来た。
実際には、食べさせるというよりも「あーん」と言いながらレンゲを差し出して、佐藤さんが食べるという形になってしまったが。
ひとくち食べたあと、佐藤さんは恥ずかしくなってしまったようで「やっぱり照れくさいからこれ以上は遠慮しておくね」なんて言っていて、それ以上聞く耳を持たなかった。
なるほど、こういった行為には案外弱いんだなぁ、なんて思いつつ、自分の分も食べ始める。
正直、ここで本当に佐藤さんが照れていたわけではなく、何か機嫌を損ねるようなことをしていて、そのことを怒っている、なんて状況だったら、相当に気まずい。
だがこういった状況は佐藤さんに出会った後に何度かあったのもあって、気にすれば気にするほど悪い方向に行く事をもう知っていた。そんな訳で深く突っ込んでいくことを諦めた。
大した会話もないまま、用意したお粥を食べ終えて、食器を片付ける。そしてそのついでに柳の分も片付ける。
そんな何気ない普通の作業を終えて、佐藤さんの部屋に戻り、告げた。
「今晩は心配だからこの部屋で寝るよ」
「えっ!?」
「いや、だからこの部屋で一緒に――」
「どうしてそうなったのっ!? なんか更に大胆な事言おうとしてない? 同じ家で寝るんだから、自分の部屋でいいと思うんだけどっ」
「ま、そうだな、それだけ元気なら問題ないか。自分の部屋で寝るよ」
「えっ、あっ、うん、そうね、それがいいと思う」
面白いくらいに佐藤さんは動揺していた。そして自分も表情には出さないものの、とてもこの場にいられるような状態ではなかった。顔が赤くなっていないかが不安で仕方ない。
こんな状況でも佐藤さんの反応が声でしか分からないのは不公平だと思った。
「じゃあ、しっかり休めよ? そんだけ元気ならまぁ問題は無いと思うが、一応倒れたんだから」
「う、うん。おやすみ」
「ああ、おやすみ。柳も、今日はこっちか?おやすみ」
今日は佐藤さんの部屋に居座るつもりらしい柳の頭を軽く撫でて、部屋を出る。
そしてそのまま自分の部屋に入り、ベッドへと突っ伏す。
「何やってんだ……俺」
勢いに任せて色々と言ってしまったことを半ば後悔しつつ、柔らかい枕とベッドに体を預ける。
歩きまわって疲れていたのか、目を閉じると先程までの興奮も収まらないうちに眠りに落ちた。