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おかゆ

 会話を続けていると、そろそろお腹が空いたなぁ、という話題になり、買ってきた食材で夕飯を作ることにした。

 とは言っても、佐藤さんに対する病人扱いは変わらない、少なくとも今日のうちは。

 食欲はあるというので、普通に作る事も考えたが、佐藤さんの要望もあり、おかゆを作ることになった。


「俺が居ない間、佐藤さんに付き添ってくれてありがとうな、柳」


 リビングまでついてきた柳にお礼を言いつつ、柳の分のごはんを与える。

 こちらを少し見つめた後、静かに柳はごはんを食べ始めた。

 柳が少し遅めの夕飯を食べている間に、キッチンでおかゆを作る。


 手慣れた手つきで、とはいかないことは当然として、おかゆくらいならいけるか?という軽い気持ちで作った結果、見た目が少し残念になってしまった。

 けれど、出来上がったおかゆは、味見を多めに行った事もあって、恐らく味だけならばそれ程ひどい出来ではないはずだ。


 出来上がったおかゆを持って、佐藤さんの部屋へと入る。

 自分が思っていた以上に緊張していたようで、入る前のノックを忘れてしまったが、もう気にしないことにした。

 手作りの料理を食べてもらうことが初めてということもあるが、それ以上に、佐藤さんが食べたいと思っている味のおかゆを食べさせてあげられるか、不安だった。


「出来たぞ、おかゆ」

「本当に作ってくれたんだ。ありがとうね、我儘聞いてもらっちゃって」

「そんなことないぞ? おかゆくらいなら、言ってくれればいくらでも作ってやるよ」

「……そっか」

「……おう」


 話の途中で、急に空気が重くなる感覚がした。

 これはきっと、会話をしている中で感じたこと。

 また何か、間違えてしまったのだろうか、そんな風に思う。


 けれど、このままの重い空気の中で、おかゆを食べさせるわけにはいかない。

 ただでさえ見た目があまり良くないのだ、このままだと普通に美味しくないと思われてしまう。

 というか、食べてもらえないことさえあり得るのだ、それだけは回避しなければならない。


「ほ、ほら。このままじゃせっかくのおかゆがぬるくなるからさ、食べようか」

「うん、そうだね。せっかく作ってくれたんだし、食べるよ」

「そうか、なんなら、全国の女子憧れのあーんをしてやってもいいんだぞ?」

「えっ、ほんとに?」

「……あぁ、大丈夫だ」


 いったいなにが大丈夫だっていうんだ。もうすでに冗談だ、なんて言える空気ではなくなっていた。

 ただ、少しでも明るい話題にしたかった、ただそれだけに必死だったというのに。

 下心なんてないはずだ……多分。

 そもそも姿が見えないのに下心も何も無いんだ。


「というか、俺から佐藤さんは見えないのに、どうやって食べさせてやればいいんだ?」

「……それは、そうね。でも、昴がおかゆをレンゲで掬ってこっちに向けてくれれば、なんとかなるんじゃないかなぁ」

「いいのか? それで」

「まぁ、仕方ないよね。してくれるだけでもうれしいし」

「そ、そうか」


 その言葉に、あからさまに動揺してしまっていた。

 あーんをしてもらえることがうれしいと、佐藤さんは言っているのだ。意識しないでいられるはずが無かった。

 必要以上に色々な感情が湧き出てきた自分の思考は、もう破裂してしまいそうだった。

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