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食料

 目を開くと、そこは最初に来たはずであるスーパーの前で、ただ、その場に立っていた。

 自分が何をしていたのか、いつからここに居たのか、それも上手くまだ働いていない頭のせいで理解できていない。


 「このスーパーがやっぱり開いてなくて、コンビニ巡って――なんで、戻ってきたんだっけ」


 少しだけマシになってきた思考を巡らせつつ、辺りを見回すが、やはり人の姿は見えない。

 雪だけは降り続けているが、それさえも変化は感じられなかった。

 おかしいのは自分だけだった。

 それも、何がおかしいのかが分からないのが、何よりもおかしいことだ。


 考え続けても、これ以上は無駄だと判断し、これからどうするかを考える。

 そして、すっかり頭から抜け落ちていたが、家では佐藤さんと柳が待っている事を思い出す。

 そもそも、買い物に出かけたのは、佐藤さんが体調を崩したからである。

 自分が食べる食料さえ無かったのだから、どっちにしても買い物に出る事にはなっただろうが、この場合はあまり考える必要は無い。


 「あの自動ドア、開かないかね……」


 目を向けたのは、一度開かないのを確認した、スーパーの入り口、自動ドアがある場所だった。

 ドアの前に立って、電気が通っていないであろう事までは確認したが、こじ開けようなどと考えたりはしていなかった。

 そんなドアに近づいて良く見れば、手のひらが入るほどの隙間があるのが分かる。

 もちろんそんな簡単な考えで開くとは到底思ってはいなかった。

 それでも試すことは必要だ、何事も試さなければ成功しないと、誰かが言っていた気がする。


「フンッ」


 慎重に隙間へ両手を滑りこませ、力を込めて、横に開こうとすると、思っていたよりも簡単に、ドアは開いた。

 え、開くの? なんて思ったりもしたが、ロックを掛けていないのなら、ただ少し開きづらいだけのドアなのだから、当然の結果だった。

 開いた扉から見えるスーパーの中はとても暗いが、非常灯の明かりがあるおかげで、少しだけ内部が見える状態になっている。


 唾を飲んで喉を鳴らすと、スーパーの中へと足を踏み入れる。

 一度中に入ってしまうと、非常灯があるおかげで、案外視界は良かった。

 とはいっても、足元はなんとか薄っすらと見える程度だし、相当近くまで寄らなければ置いてある商品が何なのかはおぼろげにしか分からない。

 そんな中で、何故か普通においてあった買い物カゴに必要な物を入れていく。

 棚の冷蔵、冷凍機能も切れていて、冷凍食品なんかは完全に溶けていた。

 なので怪しい物は手に取らないことにした。

 こんな病院もまともに機能していそうにない状況でお腹を壊したくはなかった。


「うーん、どうしようか」


 会計をしようと思ったのだが、電気がついていないのだから、レジが動くわけもなく、頭を悩ませていた。

 もうこの周辺に人が居ない事を考えると、代金を支払わずに帰ってもバレないのかもしれないが、一応、財布を持ってきているのだから、払うことにしたのだ。

 それに、警察に捕まらないといっても、良心は痛むし、罪悪感も生まれる、そんなものをわざわざこんな事で背負いたくは無かった。

 勝手に店内に入った時点であまり良くない事をしているのかもしれないが、今は非常事態だ、少なくとも自分達にとっては。


 とりあえず、適当に十分足りていそうな金額をレジに置いていくことにした。

 財布を取り出そうとすると、床に何かが落ちる音。

 それは、ポケットに入れた後、佐藤さんが体調を崩したりしていて、すっかり忘れていた、黒百合仙華の家で拾った鍵だった。

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