不安
「これは...鍵か」
床に落ちていたものは、手のひらに収まる程度の鍵だった。
ひと目見ただけでは、何の鍵なのかは分からないが、一体どこで使う鍵なんだろうか。
しばらく心当たりが無いか、鍵を観察しながら考えていたが、何も思い出すことはなかった。
そんなとき、上の階から何かが倒れる音がした。
「なんだ!?」
持っていた鍵をポケットにしまって、階段を駆け上がる。
階段を登り切ると、いちばん奥の部屋の扉が開いていた。
恐らくその部屋に佐藤さんがいるだろうと思い、声をかける。
「佐藤さん、何かあったのか?」
「う...大丈夫、ちょっと頭が痛くなっちゃって」
「それ、本当に大丈夫なのか」
「ふらっと来ただけだから、ほんと、うん」
大丈夫だと、佐藤さんはそう言うが、何かあった時、佐藤さんに触れることが出来ない以上、無理をさせるわけにもいかない。
そして、助けを求めようにも、近所にも人の気配なんて無いのだから。
「帰るぞ」
「えっ」
「いいから、今日はもう帰ろう」
「でも...」
「こんな所で倒れられても、俺が困るんだよ」
「...分かった」
渋々佐藤さんが返事をしたので、少し不安も残るが、この場では良しとすることにした。
とにかく、家に帰るということで、柳を探そうとしたが、呼ぶ前に傍にやってきた。
「柳、お前は随分察しがいいな、ご主人のこと、もっと調べたかったんだがすまん、一旦帰るぞ」
そう言って、佐藤さんと柳を連れ、黒百合仙華の家を出る。
「柳ってさ、まるで昴の言ってることが分かってるみたいに動くよね」
「そうか?まぁ、そうかもしれないな」
「そうだよ、さっきだって、昴が帰ろうとしたら傍まで来て、帰ることを伝えたらついてきたし」
帰り道、話す内容は柳についてだった。
実際、佐藤さんの言う通り、柳はまるで言葉を理解しているような行動をとることがある。
と言っても、それはあくまでも願望であり、通じない事も多くあるため、偶然だと、結論付けた。
家に着くと、すぐに佐藤さんを部屋のベッドに横にさせた。
実際に横になっているかは分からないが、恐らく横になっている...と思う。
「ちゃんと休むんだぞ?」
「心配性だなぁ、もう」
「あのなぁ、俺にはお前の事が見えないんだよ、そんな中で倒れられたりしたら、俺にはどうしようもないんだ」
「それに...もう、頼れるのはお前くらいしかいないんだよ」
あまりにも、適当な答えに、長々と愚痴混じりに感情を押し付けてしまった。
そんな後悔も、言ってしまった後ではもう遅かった。
「そ...そっか、そうだよね」
「お、おう」
少し吃りつつ返された言葉に、こちらも言葉をつまらせてしまった。
その様は引いているのか、それも仕方ないと思った。
「あっ」
「どうしたの?」
「家に食料が無いの忘れてた...」
「えっ、昨日買ってきたんじゃ」
「昨日は、最低限をコンビニで買ってきただけで、次の日になれば用意出来るかなって」
「つまり...?」
「今、家の中に食料はない!」
そんな事もあり、佐藤さんにはしっかりと休んでいるようにと強く言っておき、スーパーへ行く事にした。




