大切な存在
「それから、仙華と一緒にいる事にも慣れてきた辺りで、学園に来るように言われたんだ。
そこで会ったのが、大貫君と昴だよ」
「俺だけじゃなく、雄大にも会ってたのか」
「うん...でも、正確には2人は会ってないといったほうがいいのかな?」
「どういうことだ?」
椅子の上で少しずれてしまっていた体の位置を正しつつ、素直に思った疑問を佐藤さんに返す。
とはいえ、現状から考えると、だいたい想像はつくのだけれど。
「まぁ、結果だけ言うと、大貫君と昴は私の姿を見ることが出来なかったし、声を聞くことも出来なかったんだよ」
「...声もなのか?」
「うん、声も聞こえてなかったよ」
その言葉は、とても冗談を言っているような雰囲気ではなかった。
ということは、佐藤さんの声を聞くことが出来るようになったのは、最近だということなんだろうか。
「でもね、昴とは仙華を通して喋ったりもしたんだよ」
「あぁ、そういう方法なら会話も出来るな、姿も声も認識出来ない相手を信じられるなら、だけどな」
「そうだね...実際、大貫君は私のこと、最後までちゃんと信じてはいなかったみたいだったし」
寂しそうに佐藤さんは言う、けれど、その言葉を聞くと、大貫は信じなかったが、俺は信じたかのように聞こえる。
実際、信じたかどうかは覚えていないから確認のしようもないが。
「会話といっても、昴とは簡単な話題でしか喋ってなかったからね。」
「なにか問題でもあったのか?」
「いや...3人で合う話題もそんなに無かったのもあるし、なにより、仙華が大変でしょ」
「確かに、そうだな」
単純に、2人分の会話を1人でするんだ、大変なのは間違いない。
それにしても、話しを聞けば聞くほど、黒百合仙華のことが大切なのだということが伝わってくる。
そんな相手のことを、忘れてしまっているというのは、なんとも言い難い感情があるんだろう。
「まぁ、そんな感じでそれなりに仲良くやってたんだよ。
2年目の夏休みが来るまではね」
「随分と時間が飛んだな」
「...特に話すような内容があるわけでもないからね」
そんな風に言われてしまうと、はぐらかされたようにしか聞こえない。
気にはなるが...本人が話しそうに無いのが惜しい。
この話しをするだけでも相当無理をしていたようだし。
「学園が夏休みに入って少しした頃、仙華から大事な話があるって、学園まで呼ばれたの」
その声は先ほどまでとは違って、今にも泣きそうで、とても辛いことがあったのだろうということが伝わってきた。