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気持ち

「ねぇ、柳...私さ、全部話しちゃったほうがいいのかなぁ」


 何を考えているのか分からない表情でいる柳は、こちらをただ見ているだけだった。

 昴が夕飯を買いに家を出て行って、それまでの緊張が解け、私は延々と同じことばかり考えていた。


「本当は、喋ったほうがいいんだよね...」

「ううん、それこそ、昨日のうちに喋るべきだったんだよ...」


 同じような言葉でただひとりごとを繰り返す。

 それでも、中々踏ん切りはつかず、昴が帰ってきても本当に喋ることが出来るのかという不安も浮き上がってきた。


「私じゃ、代わりには慣れないんだよ?」


 昴にとって、それがどんなに大切なことだったか、それを私は知っている。

 彼女にとって、昴がどんなに大切な存在だったか、それを私は知っている。


「ずっと、見てたんだから...」


 私じゃ彼女を越えられない。

 私じゃ彼女の代わりにはなれない。


「じゃあ、どうすればいいんだろう」


 買い物を終えて、昴が帰ってくるまでに、覚悟を決めなければならない。

 そんな考えが私を更に焦らせる。


「だめだよね、こんなんじゃ...」


 どんなに考えを巡らせても、結局は自分に都合の良い展開へつながってしまった。

 こんな姿を見せてしまったら、彼女に何を言われるか分からない。


「うん、やっぱりちゃんと...伝えよう、何があったのかを」


 一度気持ちを固めてしまうと、少しだけ気分が晴れたようだった。

 それでもやはり、これから話す内容を考えると、気持ちはただただ重い。


「それにしても、昴はどこまで行ったんだろう...」


 考える時間が十分にあったのはありがたかったけれど、それをふまえても昴が家を出て行ってから随分と時間が経っていた。


「まさか、逃げ...るわけないよね、昴だし、というかここが家だし」


 時間が経つ度に、少しずつ不安がこみ上げてくる。

 彼も、消えていった人たちと同じように、記憶の一部が消えているのだから。


「早く帰ってきてよね、昴...」


 そう呟きながら、さっきと考えている事が逆だなぁ、なんて思うのだった。

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