迷い人
「ただいま...」
「えっと、おじゃまします」
変に畏まらなくていいと言ったはずだったけれど、律儀に挨拶をしてから家に入る佐藤さん。
まるでこの家に帰るのが当たり前のような態度で、後を着いてくる柳。
良く考えずとも、家に帰ったところで、ゆっくりは出来ないだろうと分かる。
「ちょっと我慢してくれよ?」
家の中に足を踏み入れる前に、柳の足をタオルで拭く。
てっきり嫌がるかと思っていたけれど、案外おとなしく、すぐに終わって安心した。
というか、どうして気持ちよさそうな顔をしているのだろうか...深くは考えないようにしよう。
柳を連れてリビングへ行くと、佐藤さんは先に来ていたようで「何してたの?」と聞いてきた、「柳の足を拭いておいたんだよ、フローリングだと足あとが残ったりするだろうしな」と答えると、「そっか」と言って、これ以上聞く気は無いようだった。
とりあえず、何をするにも夕飯を食べてからにしようと思って、冷蔵庫を開けると、何も無かった。
今日、買い足そうとしていたのを、忘れていた事をこの瞬間に思い出す。
「すまん...今から何かしらご飯買ってくる」
「えっ!?」
「いや...冷蔵庫に何も残ってないのを忘れてた」
「えっと、じゃあ私も一緒に行くよ?」
「んー、いいや、すぐ帰ってくると思うからシャワーでも浴びててくれ、なんなら柳を洗ってくれてもいいぞ」
そう言って、佐藤さんの返事も聞かずに家を出た。
別に佐藤さんと一緒に行きたくなかったわけじゃあない、話を聞く前に、1人で心の準備をしておきたかっただけだ。
そしてその準備が丁度良く出来そうだったから、佐藤さんを置いてきたわけである。
正直、心の中で何を言っても、言い訳にしか聞こえない、言うのなら佐藤さんに直接言わなければ伝わらない。
まるで無駄だと思うような事を考えながら、昼に一度立ち寄ったスーパーへ向かう。
しかし、スーパーへ着くと、まだ閉店時間になっている訳でもないというのに、店内の明かりが消えていた。
これはおかしいぞと思いつつ、入り口へ行くと、中に店員の気配もなければ、自動で開くはずのドアも開かない。
「開かないものはしょうがないようなぁ...」
そう呟いて、多少の違和感を持ちつつも、そろそろお腹が空いてきているのもあって、スーパーを後にする。
スーパーがだめだとすると、少し遠回りをして、コンビニに行くしか無くなってしまった。
一応、そこまで都会では無いにしろ、コンビニは24時間営業だ。
困った時のコンビニとは良く言ったもので、いつ言っても開いているのが強みだ。
...しかしそんなコンビニさえ、開いてはいなかった。
「いや...なんでだよ?」




