揺らぐ心
「はぁ...なんか普通に降りてきたはずなのに、すっごい疲れた気がする」
「普通にじゃないでしょう?いくら足場が整備されてると言っても、小さな明かりだけで降りてきたんだから...」
「そうか、これだけの違いでここまで違うものなんだな」
俺達は、なんとか暗い山を出ることができた。
途中、何度何もないところで転びそうになったか分からない。
暗い場所を下る事がこんなに大変だとは思っていなかった。
「まぁ、無事に降りられてよかったよ」
「...そう、だね」
その返事に、少しだけ違和感を感じたが、これからの事を考えると、それも仕方ないと思った。
この後、家に帰ったら、佐藤さんには喋りたくないのであろう事を色々と喋ってもらう事になる。
そうしたら、これまで通りにはいられないかもしれない。
なら、聞かなければいいのではないか、一瞬だけそんな事も思った。
そんな考えももすぐに振り払って、こんな状況であるからこそ、話は聞くべきだと、自分に言い聞かせる。
どうせ、たった数日の仲なんだから、いいじゃないか。そんな自分の考えに、虫唾が走る。
それと同時に、抑えきれないほどの違和感もやってくる。
その違和感が何なのか、今は分からない、分かる時が来るのかさえ。
少しだけ我慢していると、何事も無かったかのように、その違和感は頭の中から消えていくのだ。
「なんだったんだ、今の...」
「どうしたの?昴」
「いや...なんでもない、それより早く家に帰ろう」
呟いた言葉に返事が返ってきた事に驚いて、咄嗟に誤魔化してしまった。
けれど、態度に出てしまっていたのか、佐藤さんは心配してくれていた。
「そう?山を降りてきて疲れてるんじゃないかな?」
「あぁ、情けない限りだが、その通りだ」
「家までもうすぐだし、頑張って」
「...ありがとうな」
ひとことお礼を言うと、照れ臭くて、帰り道を行く足を早める。
こうして佐藤さんと一緒に居ると、とても良い子なんだということが分かる。
そんな良い子に対して、これから話を聞き出さなければならないというのだから、やはり胃も痛くなるというものだ。
そんな頭の中で考えがぐるぐると巡っていると、いつの間にか、自宅の前に着いてしまっていた。
頭の中を整理できていなくて、まだ聞き出す決心はできていなかった。
そんな中、柳は気づけば足元にいて、やはり離れる気など無いのだと感じられた。
こんなに必死だと、昨日は感じなかったのに、なにがあったのだろうか。




