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知らないこと

「あれ...お前、どうしたんだ?こんなところで」


 揺れる茂みの中から出てきたのは、以前、学園で出会った猫だった。

 茂みを抜ける時に、体に草がついていたので、体を屈めて取ってあげた。

 草を取って立ち上がると、足元にいる猫がいちどだけ『にゃぁ』と鳴き、こちらを見ていた。


「どうしたんだ?」

「なんだろう...何か伝えたがっているようにも見えるよね」

「そうだなぁ...」


 そうは言っても猫の伝えたい事など分かるわけがない。

 こちらを見ているだけで伝わるのなら言葉などいらないのだから。


「何を伝えたいのかなー?キミは」


 足元にいる猫のすぐそばで、佐藤さんの声がした。

 つまり佐藤さんも足元にいるということだ。

 話しかけられている猫は佐藤さんのいるであろう方向を見ていた。

 声が聞こえるのか、それとも姿まで見えているのか、猫は気配を感じることが出来るとも聞くし、どちらでもないのかもしれない。


「...あのね、昴」

「なんだ?」


 立ち上がったのか、佐藤さんが今度は横から、少しだけ含みがちに話しかけてきた。

 その声は少しだけ震えていて、緊張しているようだった。


「私ね、隠していたことがあるの、聞いてくれるかな」

「そうか...分かった、とりあえず言ってみるといい」


 その言葉に、あまり良い予感を感じることは出来なかった。

 きっと、こんなタイミングで話題に出すということは、良い話ではないのだろうと思う。

 だけど、元々秘密の多そうな人だ、隠し事くらいあってもおかしくはない。

 体が見えないという時点で、隠し事のかたまりのような気がする。


「この猫のこと、知ってるんだ、私」

「え?」


 思っていたよりも、この状況そのものを解決しそうな話題で、次の言葉が出てこなかった。

 そして次の瞬間には、何故以前出会った時に言わなかったのか、という疑問も湧いてきた。

 自分のことを話されていると分かっているのか分かっていないのか、猫は未だにこちらを見続けていた。


「じゃあ、飼い主がいるのか?なら、解決しそうな気がするが」

「そうだけど!もっと...大事なこと」

「...大事なこと」

「そう、大事なこと」


 2人して大事なことという言葉を言い合っていた、佐藤さんにとって、相当言いづらい内容らしい。

 言葉が止まったあと、深呼吸を数回する音が聞こえた。


「この猫の、飼い主は...昴の親友の...女の子、なんだよ」


 俺は、言葉が出せなくなっていた。

 ただ、佐藤さんの言葉で、雄大が残したメッセージの一部が、頭の中で繋がったような気がした。

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