展望台
思い出すことに出来ないもう1人の事はとても気になっている、けれど、それよりも、今も記憶に残っている親友の事だ。
もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。
考えれば考えるほど、抑える事も出来ずに、立ち上がる。
そして押入れから出ようとすると、佐藤さんに声をかけられた。
「待って、どこに行くの?」
「この近くで見晴らしの良い場所なんて、学校の近くにある山しかない、大した高さじゃないし、名前も知らないけど、その山を登っていくと、中々良い景色が見られる場所があったはずだ、昔、行ったことがある」
「もう間に合わないかもしれない、それに彼の言っていた場所がそこだとは限らないと思うよ、それでも、行くの?」
「行くさ、少しでも可能性はあるんだから」
「...わかった、私もついていくよ」
全く折れる気のない返事に、佐藤さんは少しだけ間を置いて渋々納得した、きっと、行かせるべきじゃないと考えたのだろう。
勝手な想像だけど、もしそうなら佐藤さんはとてもやさしい人だ。
だって、自分でも分かっているんだ、そこにはもう、誰も居ないと。
それでも諦められるわけがないじゃないか、数少ない自分の友人だったんだ。
小さめの山ではあるけれど、佐藤さんには先に家へ帰っていてもいいと伝えた。
けれど佐藤さんはついてくると答えた、今の自分はすごく頼りなく見えるらしい。
逸る気持ちを抑えつつ、早足で山へ向かう。
向かう途中で段々と日が落ちてきて、焦る。
気持ちばかりが先を行き、中々たどり着けない展望台。
道中の会話は無く、誰も通らない静かな道を進む。
小さな頃に登ったその山は、今は登り切るまでにほとんど疲れる事も無かった。
展望台に辿り着いた頃には、もう日が落ちかけていた。
「雄大!居ないのか?居たら返事をしてくれ!」
声をあげ、親友の名前を呼ぶ。
そこに返事は返ってこない。
何度も、呼んだ。
名前を呼びながら、周辺を探したりもした。
あとから気がついたのは、佐藤さんも一緒に探してくれていたらしいことだ。
二人がかりの捜索も、結局良い結果を出すことも出来ず、終わった。
探しているうちに、完全に日が落ちてしまった、確か、以前に来た時も帰る頃には暗くなってしまっていた。
その時は、周囲を照らす物を持ってきていなくて、必死に山を降りた記憶がある。
確か、山を降りる時、後ろで服の端を掴んでいた子がいた気がする。
それは一体誰だったか、思い出せない、頭にモヤがかかってしまっているようだった。
「とにかく、このままじゃ更に暗くなって危ないし、そろそろ山を降りよう」
「...うん」
申し訳無さそうに佐藤さんは返事をした、きっと、誰も悪くないんだ、もし悪人が誰かと言われれば、人が消えてしまっているこの状況を作り上げた者のせいだ、それが神様のような存在なのか、それとも自分達と同じ人間なのか、わからないけれど。
「...待って、何かいる」
「え?」
その言葉に、辺りを見回すと、確かに茂みの中で、何かが動いていた。