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書き残した言葉

『このまま自分の命が終わってしまうのは諦めきれなかったので、この場所にメッセージを残させてもらう事にした。

 これを誰かが読んでいる事を祈っている。

 本当はもう少し分かりやすい場所に書き残したかった、色々な物に試したが、どれも書いた後すぐに文字が溶けるように消えていってしまった、まるで世界が自分を否定しているようだった。

 さて、この場所を見つけて、メッセージを読んでいるということは、もう俺はこの世界に居ないのだろうと思う。

 そして、周辺で色々とおかしな事が起きたということに気づいているのだと思う。

 もし何も知らずに、偶然このメッセージを見つけたのなら、最後まで読んでもいいし、この時点で読むのをやめてしまっても構わない。

 きっと、普段通りの俺だったのなら、おかしな話だと無視してしまうだろうから』


 何かに追い詰められているような、それでいてどこか冷静であるようにも感じられる文章に、二人、言葉を交わすこと無く、続きを読み進める。


『さて、あまり多くの時間があるわけではないので、早速本題に入ろうと思う。

 最初は自分がおかしくなってしまったのではないかと思った、これを書いている3日前のことだ。

 夜、寝ている間に、他でもない自分自身に、近いうちにこの世界から自分が消えてしまうことを告げられたんだ。

 妙にリアルだった、それなのにまわりは真っ白でどこなのか分からない、そんな夢だった。

 最初は気にしなかった、けれど起きてからもずっと、頭のすみでその言葉が繰り返し再生されるんだ。

 頭がおかしくなりそうだった、だって、ずっとなんだ、ご飯を食べる時も、勉強する時も、外出する時も、ずっとその言葉が繰り返される。

 それでも1日は耐えた、気のせいだと、深く考える事ではないと、自分に言い聞かせた。

 けれど、その日の夜、また夢を見た。

 また、同じ場所で、自分自身に、「早くしないと手遅れになるぞ」そう言われたんだ。

 俺は、とにかく色々聞きたかった、この焦燥感をどうにかしたかった、けれど夢の中で自分の体は動かないし、口も開けなかった、その日も一方的に言葉を伝えられて目が覚めた』


『朝、父と母に挨拶をすると、その父と母にも異変が起きている事に気付かされた。

 俺は挨拶をしただけだった、それなのに二人は不審者でも見るかのような目で俺を見て、散々怒鳴り散らした後、俺を無理やり家から追い出したんだ。

 もちろん抵抗もしたし、追い出された後も家に入れてもらえるように言ったんだ。

 そんな俺の言葉もまるで届かなかった、二人共、俺の事を忘れてしまっていたようだった。

 名前を言ってもそんな名前は知らないと、自分達には子供なんて居ないと。

 これ以上この場所に居座るのであれば、警察を呼ぶとまで言われた。

 むしろ警察を呼んでもらって、二人の子供であると証明してもらえばよかったのでは無いかと、今では思っている』


 そこには、壮絶な内容の話がびっしりと書かれていた。

 確かにこの内容では、変わらない日常を過ごしていた以前の自分であれば読んですらいないかもしれない、ただの悪ふざけだろうと。

 けれど、不思議な体験をしてきた今の自分でも到底内容の全てを理解する事は難しいかもしれない。

 それほど、この場所に書かれている内容は悲惨であり、そこから伝わってくる感情はとてつもないものだ。

 なにより、まだまだこの壁にかかれているメッセージは残っているという事が辛い。

 それでも、彼の残した言葉を全て受け入れるには、全てを読むしか無いのだ。

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