店員
スーパーへ着くと、以前来た時と、様子が違う事に気づく。
買い物に来ている客の姿がほとんど見当たらないのだ。
「なんだか...すごい静かだね」
「そうだな」
同じような事を佐藤さんも思っていたらしく、自然と声のトーンが少し下がる。
そこで一度店内を見渡すと、幸い、店内に客が全く居ないわけでもなければ、店員も普通に居るので、そこまで深刻なわけではなさそうだ。
偶然、朝の時間に客の数が少ないということもあるだろう。
しかし、異様な事が周辺で起きている事を知っている自分達からすれば、この状況さえも疑ってしまうのは仕方ないと思う。
じっとしていても何が起こるわけでもないということで、話を聞いてもらえそうな人を探す。
店内を歩いていても、どの店員もあまり手が空いているようには見えなかったので、仕方なく近くに居た店員に話しかける事にした。
「あの、すみません、今少し大丈夫ですか」
「はい、どうしましたか?」
品出しをしていたであろう店員に話しかけると、丁寧な返事が返ってきた、まともに佐藤さん以外と会話をするのは1日ぶりだろうか。
あまり時間を取らせるのも気が引けるので、店の客がいつもより少ないか否かをさっさと聞いてしまうことにした。
実際、話を聞くとこの店員も少し違和感を感じていたのか、朝の時間で、ここまで人が少ないのははじめて見るそうだ。
他にも聞きたい事はあったのだが、これ以上はあまりにも常識外れな質問になってしまうので聞けなかった。
ただの店員に聞ける内容としては、限界がある、自分達がおかしな人間だと思われるのは、少し辛い。
他人には聞こえることのない少女の声が聞こえる男と、他人には認識出来ない少女が一緒に居る時点でおかしいのは明らかだけれど。
もう、これ以上このスーパーに居る必要性は感じられなかった。
本当は、自分達以外の客にも話を聞きたかったのだけれど、店員と話をしている間に居なくなってしまっていた。
いつの間にかこのスーパーに居るのは自分達と店員達だけだったのだ。
夕方ならば、もっと客が増えるかもしれないという事を佐藤さんと話し、ひとまずスーパーを後にすることにした。