気づく
「ん...」
目を開けると、辺りはオレンジ色に染まっていた。
どうやら話している内に眠ってしまったらしく、膝の上で寝ていた猫はすでに居なかった。
昼間の暑さも夕方になることで、多少マシに...なっているわけでもなく、普通に暑い。
寝起きであっても涼しさを感じられないのに加えて、寝ている間に汗をかいていたようで、とても気持ち悪い。
「うぉ...」
立ち上がると、普段は気にもしていなかった景色が目に入る。
自分でも単純だな、と思いつつも、空一面に広がる夕日を見て、感動してしまっていた。
こんな場所、普段ならこの時間に居る事は無かった、そう考えると、偶然出会ったあの猫に感謝しなくてはならない。
「昴ー!」
遠くから佐藤さんの声がした、というか、近くで声をかけてもらえないと、佐藤さんの居る方向しか分からない。
そういえば、ここまで大声を出す佐藤さんははじめて見るかもしれない。
「良かった、起きてた」
「お、おう、どうした?」
反射的に返事はしたものの、状況を把握出来てはいない。
それに、それなりに遠い位置から声が聞こえたと思えば、すぐに近くで話しかけてきた。
改めて思う、本当に佐藤さんは人間なのか、それこそ幽霊かなにかではないのか、見えないし。
「とにかく、来て」
「わ、わかった」
今、ここで聞いても恐らくまともな返答は返ってこないだろうと思い、おとなしく着いて行く事にした。
...いやいや、見えないし着いて行くの無理だろ。
「こっち」
「いやどっちだよ」
「あぁ...そっか、時計だよ、時計!」
「時計?昇降口の?」
「そう、それだよ、とにかく、見て欲しいの」
「わかった」
何をするにも、結局は会話が必要だった、相手の姿が見えないのなら尚更。
それから、言われた通り、校舎の中に入って一番最初に、目に入る時計を見る。
「これは...また針が動いたのか?」
「うん...そうみたい」
目にした時計の針が指していた時間は『6時21分』だった。




