もう一度
「もう一度、学園に行ってみない?」
そんな佐藤さんの言葉で、学園へ行く事になった。
元々雄大の家を訪問した後に行くつもりだったのでちょうど良かった。
昨日の出来事が嘘で、学園の生徒達が普通に登校しているという事もあり得るのだ、そこは自分の目で確認しなければならない。
もし事実だったとしても、まだ見逃している手がかりを見つける事が出来るかもしれない。
情報が不足している今の状態だからこそ、行動が必要だった。
学園の前に着くと、昨日は意識出来なかった事に気づく。
とても静かなのだ、人の声がしないだけではなく、車の音や、鳥やセミなどの鳴き声さえも聞こえない。
やはりここには何かあるのだ、そう思うのには十分な理由だった。
「じゃあ、入るぞ?」
「もう入ってるんだけど...」
「えっ」
折角覚悟を決めていたのになんだか力が抜けるような感覚にあった。
なにより、佐藤さんのほうが男らしく感じるのはなんだか悔しかった。
昨日あれだけ緊張する出来事があって、まだ慣れてない方がおかしいのかもしれないけれど。
「あれ...なんかごめんね?」
「いや、いいよ、それよりも中を見て回ろう」
数回深呼吸をした後に、入り口を越えて学園の中に入る。
まだ何も分からない状態なのだから、こんな場所で躓いてはいられない。
中に入って一番最初に目に入ったのは時計だった。
昨日来た時は学園の中にある時計全ての時間が『9時10分』だった。
それが今、自分たちの目に映っている時計は、『7時00分』になっている。
「時計の時間、昨日と違うよね?」
「そうだな、昨日は9時10分で止まってたはずだよ」
昨日、学園を出た後に時計が動き出したのだろうか。
誰かが針を動かした可能性もあるし、他にも色々理由は考えられる。
「とりあえず、他の場所の時計も順に確認してみよう」
「分かった」
下手に別れてはぐれても困るので、ここは一緒に確認することにした。
佐藤さんからは見えるのだから、心配はいらないのかもしれないが、念の為だ。
その後、教室を見て回ったが、時計の針はどれも同じ場所を指していた。
もしかしたら誰か学校に来ているかもしれないと思っていたが、結局誰にも会う事は無かった。