誤解
「佐藤さん、お風呂入らない?」
「...え?」
かけた一声で、一瞬時が止まったような錯覚をした。
さすがに言い方がまずかったんじゃないかと、自分でも思う。
気が抜けていたのか、口調まで不自然な優しさに溢れていたのも恐らくマイナスだ。
さて、ここでどうやって誤解を解くかに頭を巡らせていると、聞き取るのも大変なほど、小さな声が聞こえた。
いや、まぁ、佐藤さんしか居ないんだけど。
「わ...私の体が見えないからって、さすがに一緒に入るのは...ダメだと思うよ...?」
やはり佐藤さんは勘違いしていたようだった。
もはやこれは顔が見えなくても、引いているか、恥ずかしがっているかの二択だと思う。
今、この瞬間にもきっと、元々少なかったであろう信頼がどんどん減っていることだろう。
そう、早く誤解を解かなくてはいけない、落ち着いて、言葉の意図を伝えなければならない。
「あぁ、ごめんな?言い方が悪かった、もちろん別々にだよ、昨日は汗をかいたから、どうかなと思って、うん」
「そっ...そっかぁ...そうだよね、こっちこそ、勘違いしてごめんね?」
「いやいや、分かってくれたならいいんだよ」
どうやら分かってくれたようで一安心である。
いつもよりテンションが低く聞こえたけれど、きっと恥ずかしがっているだけだと思う。
それ以外の事が理由だと考えるのはさすがに自惚れだろう。
変な誤解をさせてしまったせいで、大きく話題がずれてしまっている事に気づいた。
ただ、汗を流したかっただけだったのに、何がどうしてこうなってしまったのか。
その後、気まずい空気の中で半ば無理やりに話を戻し、軽く汗を流す事にした。




