二人分
「鮭、味噌汁、きんぴらごぼうにたくあんか...」
「まさしく和食!って感じだね」
母さんが用意していたらしい食事はまるで朝食のような内容だった。
メニューはありきたりなものなのだけれど、あまり夕食に出てくるような内容でもない気がする。
「今までこんなメニュー夜に出した事無かったと思うんだけどな」
「でも、ちょうどいいかも、ほら、朝だし」
「まぁ、そうなんだけどさ」
二人してなにかおかしな気分になりつつも、冷め切った食べ物らを温めなおす。
そういえば佐藤さんは何も食べなくても平気なんだろうか、ほら、透明だし。
そもそも物に触れるのかさえ分からないのだけど。
「佐藤さんはご飯食べる?」
「食べるよ」
「えっ」
「そりゃ私だって人間だもん、食事くらいするよ」
それが当然とでもいうような返事が帰ってきた。
人間、予想外の返事が帰ってくると聞き返してしまうものらしい、少なくとも自分はそうだった。
でもそうか、食べるのか。
「どうやって食べるんだ?」
「どうやってって...普通に」
「普通に?」
「箸を使って」
「持てるのかよ!」
「そりゃ持てるでしょ?」
またしてもこれが当然というような返事だった。
驚きすぎてつい突っ込んでしまったほどだ。
でも、持てるのか...先入観って怖いな、透明だから持てない、触れないとずっと思い込んでいたのだから。
「じゃあ、朝食は...母さんの分もあるし、二人で食べようか」
「いいの?」
「空腹で倒れられても、俺じゃ見えないから助けられないしな」
「分かった、ありがたくいただきます」
「うむ、よきにはからえ」
「それ、使い方違うと思うよ?」
「マジか...」
場を和ませようとふざけたつもりが恥をかいてしまった、二人しか居ない場所で使うものでもなかった。
恥ずかしさをどこへ向けて逃げさせるかと思っていたところで、朝食が温め終わった。
気まずさもあって、話を中断させて朝食をリビングのテーブルまで運ぶ。
佐藤さんは箸を使って普通に食べると言っていたが、本人が見えない状態でそれはどうなるのか非常に気になる。
二人分の食事を並べたテーブルで、二人向い合って座る、多分...座ってるはず。
1日ぶりの食べ物達は、とても輝いて見えた。




