少女
「どうしよう...起きない」
こんな事を呟いているのは、少し前に昴が急に倒れてしまったからだ
突然の出来事だったから、焦ってつい壁にぶつかってしまったほどである...結構痛い
それにしても昴のお母さんはどうしたのだろうか、まだ気づかないのか
そうだ、私が昴が倒れた事をなんとかして伝えればいいのか
まだ頭が混乱しているのか、こんな事すら気づかないなんて。
急いでリビングまで来るとそこには誰も居なかった
あれ?と思ったが、さっきここに入った所を見たのだから居ないというのはないだろう
もしかしたら奥に居るのかもしれないと思い、キッチンの方へ向かう。
「昴のおかあさーん、いませんかー?」
聞こえないとわかっていても、呼ばずにはいられないかった
キッチンまで来ても、昴の母親は居なかったのだから
コンロには味噌汁の入った鍋が乗っていて、少し前まで温めていたように見えた
そのまま別の部屋も探しに行ってみるが、誰も見つける事が出来なかった
普段は絶対に扉を開けたりしないのに、今日は沢山開けちゃったなぁ、なんて思う
なぜだか結局、昴の母親を見つける事は出来なかった、
おかしい事だとは思うのだけれど今はまず昴の所に戻ることにする
昴は倒れた時と同じ姿勢で動く様子は無かった
「これはちょっとまずいんじゃないかな...」
探しているうちに少しは落ち着いてきていた気分がまた焦りによって高まっていくのを感じる
こういう時はどうするべきなんだろうか...
他人に触る事が出来ないのは何度か試してきたからわかっているけれど
それでもこんな時くらい触れてもいいんじゃないかな...
ダメ元で昴を動かそうとしてみる
...やっぱり触れなかった
「息はしてるし...仕方ないか」
自分でも諦めが少し早いんじゃないかとは思うのだけど、これ以上できることが思いつかない
私に出来るのはきっと、昴の母親が気づくのを待つか、昴が目を覚ますのを待つくらいしかない
...結局待つだけじゃないか、でもきっとそれが、他人に姿が見えない私の唯一出来る事なのかもしれない
「早く起きてよね、昴...」
...その日、昴が目を覚ますことはなかった。




