表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/102

貴方ともう一度生きる世界

――夢を。

――長い、長い、夢を見ていたようだった。


 それは、とても淡く、寂しい。けれどどこか、優しいものだったように思う。

 そんな感情さえ、すぐに消えてしまう。

 夢の内容はもう思い出すことは出来ない。

 それは当然であり、夢とはそういう存在なのだろう。


 そんないつもとは少しだけ違う朝を過ごした後、いつも通り学園へと向かう。

 季節は、秋。

 もうすぐ、冬がやってくる。

 友人は少ないけれど、それなりに学園生活を過ごしていると思う。


 学園へ着いて、教室へ向かう途中、ある噂を耳にした。

――放課後、夕日が良く見える空き教室へ行くと、女子生徒の幽霊が出るらしい――。


 この学園では、二年ほど前から少しずつ有名になっていった噂だ。

 けれど、この噂を流したのが誰か分からないし、この幽霊を見たという話も聞いたことは無い。

 自分から探しに行くほど、興味の湧くような話では無いし、本気で探すような生徒も居ないのだろう。


 けれど、この日に限って、噂の内容が少しだけ変わっていた。

――その女子生徒の幽霊は、ずっと、ずっと、誰かを待っているんだって――。


 このような噂は、きっと良くあるような、七不思議のようなもので、きっと、時間が経つにつれて、変わっていくのだろう。

 それでも、その日、この噂を聞いた俺は、どうしてか、他人事には思えなかった。

 だから、きっとそれは、ずっと以前から、決まっていたことなのだろうと思う。


 学園での一日が終わると、足は自然と人気の無い場所へと進んでいく。

 この学園では、もうほとんど使われていない校舎。

 もう少しすると、取り壊されるのかもしれない。


 この場所は、夕方になると、とても綺麗な夕日が見える。

 一度も、来た事が無いはずなのに、そんなことを知っていた。

 実際、その夕日はとても綺麗で、ずっと見続けていればこの身ごと溶けてしまいそうだった。


 自然と、足は進む。

 まるで、この場所を知っているかのように。

 ゆっくりと、教室の扉に手をかける。


……懐かしい、香りがした。

 教室には一人、椅子に座って、本を読んでいる女子生徒。

 人がやってきたことに気づいたのか、彼女は読んでいた本を閉じ、顔を上げる。


 俺は、彼女を知らない。

 けれど、どこか懐かしい。

 そんな、少しだけなんと声をかければいいのか悩んでいる俺だったけれど。

 俺の事を見た彼女は、これ以上無いと言えるほど、満面の笑顔で言った。


『やっと、会えたね』

終わりゆく世界をキミとただ一人で。

完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ