貴方ともう一度生きる世界
――夢を。
――長い、長い、夢を見ていたようだった。
それは、とても淡く、寂しい。けれどどこか、優しいものだったように思う。
そんな感情さえ、すぐに消えてしまう。
夢の内容はもう思い出すことは出来ない。
それは当然であり、夢とはそういう存在なのだろう。
そんないつもとは少しだけ違う朝を過ごした後、いつも通り学園へと向かう。
季節は、秋。
もうすぐ、冬がやってくる。
友人は少ないけれど、それなりに学園生活を過ごしていると思う。
学園へ着いて、教室へ向かう途中、ある噂を耳にした。
――放課後、夕日が良く見える空き教室へ行くと、女子生徒の幽霊が出るらしい――。
この学園では、二年ほど前から少しずつ有名になっていった噂だ。
けれど、この噂を流したのが誰か分からないし、この幽霊を見たという話も聞いたことは無い。
自分から探しに行くほど、興味の湧くような話では無いし、本気で探すような生徒も居ないのだろう。
けれど、この日に限って、噂の内容が少しだけ変わっていた。
――その女子生徒の幽霊は、ずっと、ずっと、誰かを待っているんだって――。
このような噂は、きっと良くあるような、七不思議のようなもので、きっと、時間が経つにつれて、変わっていくのだろう。
それでも、その日、この噂を聞いた俺は、どうしてか、他人事には思えなかった。
だから、きっとそれは、ずっと以前から、決まっていたことなのだろうと思う。
学園での一日が終わると、足は自然と人気の無い場所へと進んでいく。
この学園では、もうほとんど使われていない校舎。
もう少しすると、取り壊されるのかもしれない。
この場所は、夕方になると、とても綺麗な夕日が見える。
一度も、来た事が無いはずなのに、そんなことを知っていた。
実際、その夕日はとても綺麗で、ずっと見続けていればこの身ごと溶けてしまいそうだった。
自然と、足は進む。
まるで、この場所を知っているかのように。
ゆっくりと、教室の扉に手をかける。
……懐かしい、香りがした。
教室には一人、椅子に座って、本を読んでいる女子生徒。
人がやってきたことに気づいたのか、彼女は読んでいた本を閉じ、顔を上げる。
俺は、彼女を知らない。
けれど、どこか懐かしい。
そんな、少しだけなんと声をかければいいのか悩んでいる俺だったけれど。
俺の事を見た彼女は、これ以上無いと言えるほど、満面の笑顔で言った。
『やっと、会えたね』
終わりゆく世界をキミとただ一人で。
完。




