序章 入門
雨の音がうるさい。周りの音を掻き消すほどの音の中、青年は横たわった少女の前に立っていた。
その少女は白いワンピース姿で死んだように眠っている。
いや、死んでいるのだ、腹を真っ赤に染めて。青年は、少女の血で濡れた右手を拭う事もせず、
ただただ少女の前に立ち、死んだような目で雨の中に消えていった。
「師匠、起きて下さい!」
と言う声が聞こえる。どうやら転寝をしてしまったらしい。
うっすら目を開けると、もうそれは活発ですよ。と言わんばかりの少女が向かいの席に座っていた。
赤い頭髪を肩まで伸ばし、童顔な容姿をしている。確か年は16だったかな。
「あ、ああ。もう着いたのか?」
「はい。ほら!」
そういって馬車の窓から顔を出す。自分もそれに従うように窓の外を見る。
「目的地。魔獣討伐養成国家エンドレスです!」
見えてきたのは要塞の様な城壁。そして馬車が門を潜ると、木造で出来た商店街に民家。
宿なども見えてくる。いずれも活発的に人が行き交っていた。
「変わんないなぁ・・。」
「えっと、確か師匠は3年ぶりでしたっけ?」
「ああ。でも何だ。なぜ周りの奴らは俺の顔を見るんだ?」
「え・・。だってそりゃそんな仮面付けてたら・・。師匠・・。」
「やっぱ目立つ?」
「はい。がっつり不審者です。というかそれ、私と会った時から付けてますよね。いい加減、顔見せてくださいよ師匠!」
「見せないから魔法教えてやるって約束だろ?」
「ぐぬぬ・・。それをここで教えてくれるんですよね?楽しみです!」
「ああ。とりあえず、学び舎に行こう。」
「はい。師匠!」
そう言って馬車を降りる。御者に金を支払った後、はしゃぐ弟子の後姿を見ながら
自分も育った学び舎に足を運ぶ。
「ほんと、懐かしいな・・。何もかもが。」
「ん?師匠。何か言いましたか?」
「いや、何でも無いよ。」
「そうですか?とっとと行きましょう!早く魔法を覚えたいです!」
「ちょ、ちょっと引っ張るな。」
「早く早く!」
そう言って引っ張る弟子に呆れつつ、平和だなぁ。と思う一時だった。
その数分後、道が分からないと言い出した弟子にチョップをしたのはここだけの話。