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「二人ともそろそろ寝なさい」

時計の針が11時半を指している。

そろそろ寝るかぁ。

「父さん、母さんおやすみ」

「かず、おれには?」

「知らぬ」

ゆーじを軽くあしらって俺は自室に向かった。

ベッドでごろごろしつつ目をつぶる。

俺の周りって個性強いの多いよな……疲れる。

と、そこにドタドタドタと階段を登る音。

ばあん!

「かずー!」

ばふっ!

「ぐえ!お前布団にのるな下りろ!」

「退いてほしくばおやすみと言え!」

「わかったおやすみおやすみ!!!」

「よし」

満足そうにうなずくとゆーじは俺のベッドに寝転んだ。

「せまい!出てけ!」

そう言って蹴飛ばすけど動く気配は全くない。

この……!!

ゆーじはたまに俺と一緒に寝たがる。どたばたとやってきてはつまらない事を言って俺のとなりに寝転ぶ。

仕方なしに俺がゆーじのベッドに行くと朝にはゆーじがいる。

女子好きだから間違いなくホモではないと思う。

ただ、昔から一人の時間が多い分、人の体温が恋しいんだろう。

昔は父さんもたまにされたそうだし。

最初は気持ち悪かったけど、最近は諦めている。

ため息をついてベッドにもぐりこんだ。

「なあ、かず」

「なんだよ。起きてるなら出てけよ」

「……かず、お前3年になってはじめて俺達にあった時、どんな風に思った?」

急になに聞いてるんだこいつ…。

確かあまりかかわらないでおこう、とは思ったけど、そんなことゆーじに言えるわけがない。

「え、と。人気あるやつだな……とか」

ゆうじはしばらく黙ってたが

「そりゃ嘘だろ。言っただろ。お前はすぐ顔に出るって。かずの考えてることなんて俺には手にとるようにわかるんだよ」

と一刀両断した。

むにっ

いきなりゆーじが俺のほっぺたをひっぱった。

「離してほしかったら正直に言え」

「れもこれりゃあひゃべれない……」

「ああ、それもそうだな」

ゆーじはぱっと手を離した。

痛かった。

顔が伸びたらどーしてくれんだよ。

「ちょっと言いづらいな…」

「いーから言え」

「……人気者だなって思ったのは嘘じゃないからな。関わらないでおこう、って思ったんだ」

「ふーん。関わらないでおこう、か」

ゆーじは別に怒った風でもなくそういった。

そりゃあの時はそう思ったけどさ。でも今はそんなこと思ってたってしょうがないしな。義兄弟になって一緒の家で暮らしてるん


だから。

それにゆーじだってけっこういいやつかもしれんし。

「そんじゃかずって悲惨だな」

ゆーじがぼそっとそんな事を言った。

「え、悲惨って……そんなことないけど」

ゆーじはこっちを見ようとしない。さっきまでふざけてたのに、いきなり静かになるとなんか物足りない。

どーせまたいつもの冗談だろうと俺は思ってた。

しばらく考えて、俺はゆーじにこう言った。

「ゆーじは俺のことどう思った?」

「………」

「おい」

「………」

「明日は朝飯に魚焼こうかと思ったけど、やめようか」

「……ベーコンエッグ食べたい」

「了解」

ゆーじは面倒くさそうに起き上がると

「実は俺、かずのことかわいい女の子だと思ってた」

「よし、わかった。殺す」

「ごめんごめん」

「学生服着てただろうが!」

「俺達が始めて会ったのって中三が初めてじゃないし」

「……まじで」

「やっぱり忘れてたか。しゃーねーなぁ。俺達って昔は結構近くに住んでたんだぜ」

そういえば、引っ越した記憶がかすかに残っている。

いつごろだっけ?

ゆーじはベッドから降りて、何かとりにいった。そしてゆーじはアルバムを持って戻ってきた。

「幼稚園のときのアルバム」

ゆーじはアルバムをぱらぱらめくってあるページでとめた。

「コレ誰だ」

ならんで写ってる写真の中の一人をゆーじは指差した。

「あ、これおれ!」

「じゃあこれだれだ」

今度は俺のすぐ後ろにいる一人に指差した。

なんか見覚えがあるよーなないよーな……。

仕方なく名前のところを見ると

え!

藤浦佑治?ゆーじ?ええ?

ゆーじがいきなりくすくす笑い出した。

「そー。俺だよ」

「まじか……知らなかった」

「覚えてなかった、だろ」

びっくりした。幼稚園一緒だったんだ。

あれ?

でもたしか小学校は違うはず……なんだけど。

「かずは小学校はいる前に引っ越しちゃったんだ」

「そうだっけ?」

「……なんでお前が覚えてなくて俺が覚えてるんだ?」

「……さあ……?」

そっか。それでか。

中学校は2つの小学校が一緒になるからな。

そーいえば父さんが死んだから引越たんだっけ。

母さんと俺の二人で普通の家は広すぎるからマンションに変えたんだ。

「でもさ、幼稚園っていったらほとんど私服だろ?男も女もわかんねーよなぁ」

でもだからって、一年間も男って気がつかんか?

いくら私服で女に見えてもトイレでわかるだろ。

「言っとくけどかずのこと、女と思ったのは最初だけ」

「じゃあ男って気がついてからどう思ってたんだよ」

「忘れたわ」

「はぁ?!」

「もう寝ようぜ。昔話とかいつでも出来るし」

そう言ってゆーじは完全に寝る体制に入ってしまった。

おいおいおい。

仕方なく俺も布団をかぶったのだった。


**********


「ゆーじ帰るぞー」

そう言いながら、扉を開けようとしたとき、教室から声が聞こえた。

「やっぱ嫌だろ。自分よりチビに兄貴になられるとか」

この声はゆーじの友達か??

「おまけにかわいいかず君とか。お前も悲惨だな。ゆーじ」

ゆーじ?ゆーじが俺のことを?

「そんだけじゃなくて、かず君は女子っぽいもんなぁ」

ゆーじ、何か言ってくれよ。反論しろ!でも願いは届かなかった。

「確かに自分より小さいお兄ちゃんってのはいやかな」

………。

その後俺は何も考えられず、ゆーじを置いて帰ってしまった。

真っ白になりながら。


***********


「ただいまぁ」

「おかえり」

「父さん、かず帰ってる?」

「かずならちょっと前に帰ってきたよ」

「ふーん」


トントントン


「かーず」

はっ

ゆーじの声で俺は我に返った。

「なんで、今日先に帰ったのさ。俺待ってたのに」

「ああ…ごめん」

「……かず、なんかあったのか?へんだぞ」

「べつに……」

俺はなるべくゆーじの顔をみないようにした。

「……やっぱなんか変だかず」

「……」

「いつもならへんとかおかしいって言ったら言い返してくるのに……」

ゆーじの喋ってる言葉なんかちっとも入ってこない。

『確かに自分より小さいお兄ちゃんってのはいやかな』

その言葉がおれの頭の中でぐるぐるまわってる。

「熱でもあんのか?」

ゆーじが俺のでこに手をあてようとした時、思わず反射的にその手を払ってしまった。

「……かず?」

ゆーじがびっくりしている。

けどやっぱりゆーじの顔がまともに見れなくて目をそらせてしまう。

「俺なんか悪いことした?」

したよ。

あの時俺がいたら、多分あんなこと言わなかっただろう。

今までそんな風に思われてるなんて気づきもしなかった。

反対に結構うまくやっていけるんじゃないかなって思ってた。

ゆーじのこともそのうち好きになれるんじゃないかなって。

家族として、兄弟として。そして友達として。

そんな風に思ってたのって俺だけ?

ゆーじは俺のこと嫌だけど、兄弟だから仕方なくって思ってたのかもしれない。

「かず?」

そうだ。忘れてたよ。こいつは八方美人なんだってこと。

「ゆーじ」

「ん?」

ゆーじが少しほっとしたように俺をみる。

「自分よりチビなやつが兄貴っていやか?」

「……何言ってんだよ」

ゆーじは笑ってる。

「ほんとのこといえば?」

「俺はそんなこと思ってねーよ。兄貴っつても二ヶ月だけだろ?」

ほーら。やっぱり俺には知られたくないんだ。

あの時の言葉。

「俺知ってるぜ。今日、教室で2組のヤツと話してただろ?」

「中谷?ああうん」

そろそろ本音が出てきたか。

「……かず、聞いてたのか?」

「たまたま聞こえたんだよ」

「それで怒って先に帰ったん?」

「……」

俺が答えずにいたらいきなりゆーじがくすくす笑いだした。

「何笑ってんだ」

「あんなの冗談に決まってるだろ」

「嘘ばっか」

「うそじゃないよ」

この八方美人め。

「嘘だ」

「嘘じゃないってば」

「正直に言えばいいだろ。俺みたいのが、たとえ戸籍上だけでも兄なのは嫌だって」

「かず?」

「女みたいな顔したやつが……」

「いい加減にしろよ!」

ゆーじがいきなりどなった。

「さっきから聞いてりゃなんだよ!俺の言うことが信じられないのか?」

「信じれるわけねーだろ!今までさんざんからかわれてきたからな!俺がどんな気持ちでいたかなんてわかんねーだろ!」

ゆーじが少し黙った。

「ああ、わかんねーよ。他人の気持ちなんて」

そーら本性をあらわしたな。この猫かぶりが。

「かずが苦しもうが、俺には関係ないね」

ゆーじは顔色一つ変えずにそう言った。

むかっ!

「くそ!お前なんか出てけ!!」

俺は真っ赤になってそう叫んだ。

「かず、おまえ何か勘違いしてねーか?」

「なにがっ」

「ここ俺んち。そんなに言うならかずが出て行けば?」

「……わかった」

そう言って俺は部屋を出て力いっぱいドアを閉めた。

はっ!

俺はあることに気がついてもう一度部屋に戻った。

がちゃ

「おや。早いね。もう帰ってきたのか」

ゆーじがにやにやしながら言った。

「忘れ物」

俺は引き出しから財布をとりだし、再度力いっぱいドアを閉めた。

そしてゆーじの部屋に行って、ピンクの豚の貯金箱を財布と一緒にリュックの中に入れた。

「かずどっか行くのか?」

父さんが尋ねる。

「ちょっと家出」

「そーか家出か……え?」


********


ゆーじのやつ!

あんな家、もう二度と帰るものか!

とは言うものの…

青木んちはすぐばれそうだしどこ行こう?

とりあえず駅まで歩いてきたけど……。

と、前を見ずに歩いていると人とぶつかった。

「あ、すみません…」

「こっちこそわりーわりー……あれ、お前…かずか?」

「は……?お前は……涼?」

久しぶりの従兄弟との再会だった。


********


涼は死んだ俺の父さん、父方の従兄弟で5歳年上の大学2年生だ。

面倒見がよくて小さい頃はよく面倒見てもらってた。

俺が困ってるのがわかったら、俺を涼の一人暮らしの部屋まで引っ張ってってくれた。

涼は一通り話しを聞いてくれて、少し考えてから提案してくれた。

「じゃあかず、おれんところに来い」

「?!」

「ただし、家事全部やってもらうけどな」

「うんうん、なんでもするよ!」

ありがとうありがとう。まじで助かった!

「俺はバンドで部屋にはほとんどいないから、適当にやってくれ」

バンド…へぇ~涼、バンドなんかやってるんだ…。

俺が興味を持ったのを感じたのだろう。

涼はにやっと笑った。

「見に来るか?」

「…行く」

なんか家出していきなりついてるな、俺。


************


「かず、起きろ」

「んー…おはよ…」

朝、人に起こしてもらったなんて、何年ぶりだろう。じーん。

「さーかず、早く起きて朝飯を作るのだ」

…居候させてもらうんだから、仕方ないか。

中学生はアルバイトできないしな。

とりあえず、俺はおきてキッチンへと向かうのだった。


***********


じゅー


ピッポッパッピッパッ

RRRRRRRR…


『はい、藤浦でございます』

「あ、おばさん?俺、涼だけど」

『あら涼君?久しぶりね』

「あのさ、昨日から、かず家にいないだろ?」

『そーなの。でもなんでそんなこと知ってるの』

「実は今俺んちにいる」

『え、それ本当?良かった。じゃあ心配ないわね』

「ゆーじ君だっけ?喧嘩したみたいで」

『まあ涼君のとこだったら安心ね。少しの間、かずよろしくね』

「はーい。それじゃ」


じゅー

「かずはキッチンだからばれてねーよな…」

「りょー出来たよー」

「おー上出来!」

「まぁね」

……今頃学校では俺の家出のことが広まってるころだろう。

ゆーじが青木に一言でも喋ってたらもうおしまいだ。

戻りにくいな……。

はっ

俺は思い切り首を横に振った。

「かず、どーかしたか?首ちぎれるぞ」

「あ、なんもない」

そーだ涼がいたんだっけ。

誰が戻るかあんな家。あんな学校。

誰も心配なんてしてくれない。

一番身近にいたゆーじにさえあんな風に言われたんだ。

友達なんて1から作り直せばいいさ。

とおるだってティナだっているもんねーだ。

……立花はどうしてるかな。


**************


「んじゃかず、俺学校行くから後頼むなー。それから間違えても外はうろちょろすんなよ。勉強は出来ればしとけ」

「はいはい。いってらっしゃい」

やっと行った。やれやれ。

よく喋るし青木といい勝負。おまけに相変わらず面倒見がいいな。

おかげで置いてもらって助かる。

……父さんと母さん、さすがに心配してるかな…。

無事だってことだけでも電話しておくかな。


RRRRRRRRRRRR

『はい。藤浦です』


げ、ゆーじ。

一番出て欲しくないやつが出てきた。

思わず無言になると向こうから問いかけてきた。

『もしかしてかず?』

まじで…俺ってなんでわかった?

『かずだったら……お前…俺の貯金箱返せよ!』

「すみません。まちがえました」

がちゃん。

……掃除でもしよ。


************


掃除も終わってすることがなくなったので、家にあるものを物色する。

お、キーボードがある。

適当にさわってると楽しくなってきた。

いろいろ弾いてみる。

時間を忘れて弾いていると、いつの間にか涼が帰っていた。

「あ、おかえりー。キーボード借りてる」

「おー。かず、お前上手いなぁ。習ってたのか?

「うん。ピアノ暦8年」

「へー大したもんだ。……うちのバンドでキーボードやってみるか?」

「え!」

「今ちょうどいないんだよねー。気楽にやって、合わなきゃやめてもいいし」

「……でも俺なんかで……」

涼はくすっと笑って俺の頭をくしゃしゃしながら

「そーだな。お前中坊だもんな。ま、考えといて」

「うん。ちょっと考えさせて」

「とりあえず、明日のバンド練習いっしょに来いよ」

「うん」

でもなんか嬉しいな。俺にも人の役に立つことができるかもしれないんだから。

キーボードか……。


**********


次の日。

涼が大学から帰ってきたあとすぐ。

「かず、6時になったら家出るぞ」

「お、おお」

あと十分しかないけどな。

「涼、夕飯どうする?」

「後でバンドのやつらと食べに行くから今日は作らんでいいぞ」

まじでか。ラッキー!

となると、服着替えるぐらいしかすることないよ。

その服も涼のを借りてるんだけど。

しかし……俺って本当に小さいのな。

鏡を見ながらつくづく思う。上も下もぶかぶかだ。

涼は背も足長いしな。

うー。

「ほれ行くぞ」

涼に促されて、部屋を出た。


************


暗い道を涼と喋りながら歩いていった。

「かず、高校どうすんの?」

「行くよ」

「お前、頭いいもんな。けっこーいいこと狙えるんじゃねーか」

「うん。K高あたりねらってる」

高校でレベルの高いところ行くのはゆーじのヤツと離れられるとゆーのがひとつの理由。

あいつはあんまり頭は良くないから。

「ひゃー。すげーな。でもこんなことしてていいのか?受験生」

「うー…」

確かに…。勉強道具一切持ってきていない。

「まあ俺は口出ししないけどさ。別にいつまでいたっていいんだぜ」

「ありがと」

やっぱ涼はいいやつだ。

「それにかずがいてくれたら家事しなくていいしな」

「そこかよ」

まあいいけどね。


*****************


かずが三日前からいない。

家出してしまった。

原因は……俺との喧嘩。

あのばか……今頃何やってるんだよ!

「ようゆーじ、何イライラしてんだよ」

青木が肩を叩く。

「何でもねーよ」

「かずがいないとイライラしてまぁ。かずがおたふくで学校これないのがそんなに寂しいってか?」

「うるさい」

なんとか青木を黙らせようと実力行使にでようかとした時、そこにしょうちゃんが寄ってきた。

「かずくんのお見舞いに行きたいんだけど…」

「ごめん。うつるから……」

「そっかぁ…」

しょうちゃんががっくりする。

くそ…かずのやつ!

帰ってきたらぶん殴る!


************


「ただいまー」

9時頃、母さんが珍しく早く帰ってきた。

「ゆーじごはんー」

今までかずがやってたことが俺に回ってきてる。

そのいつもの感じがあまりにもかずのことを気にしていないように見えて

「母さんはかずが心配じゃないの?」

と聞いてみた。

「あー平気平気。涼君がちゃんと見ててくれるから」

「涼君…?」

母さんはにやりと笑った。

「かずを迎えに行く?」

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