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ピピピピ…

さっきからずっと目覚まし時計の音が鳴り止まない。

ピピピピ…

「……」

ったく…

「ゆうじっいーかげんおきろよ!お前は!」

「…なんじー?」

ピピピ…

「七時半!目覚まし鳴ってんだからとめろよな!」

「ふぁー」

でっかいあくびをしてやっとふとんから出た。

「父さん達は?」

「二人とも30分前に家でてったよ」

「あ、そー」

「ゆうじ、お前あされん行かなくていいのか?サッカー部だろ?」

「ああ、あんなのいーのいーの」

「いーっておまえ…」

「どーせもうすぐなくなっちまうんだからやってもしょうがねぇよ」

そう言って階段を降りていった。

「かずーっ」

階段の下から呼ぶんで俺も下におりていった。

「なんだよ」

「俺の朝飯は?

「そこにパンがあるだろ」

「えーっパンー?おれごはんがいい」

「あ、そう。じゃそうすれば?」

「おかず」

「自分でつくりゃーいーだろ」

「かずくぅーん。ねぇ~僕のためにハムエッグつくってよぉ」

声色をかえてゆうじがそう言った。ふんっ作ってやるもんか。パンが嫌ならご飯に鰹節でもふりかけて食ってろ。

「かずーぅ」

「……」


ジュー。


俺ってつくづくお人よしだと思う…。

「かずー。まだかよー」

ムカッ。

「人に作らせといて、文句を言うな!」

「へいへい」


*******


二ヶ月前、中学校最後の夏休みも半ばをすぎた頃、俺の母親とゆうじの父親が再婚した。

4月にクラス替えがあって、同じクラスのヤツに男子とも女子ともやたらと仲が良くて目立つやつがいた。あんまり関わらないでおこうと俺は思ってたんだ。

夏休みが始まったばかりのころ、俺は母親の再婚相手とその子供に会うことになった。

会ってみてびくりしたのは俺だけじゃない。ゆーじもすごくおどろいていた。まさか、同じクラスになって関わらないでおこうと思ってたやつと義兄弟になるなんて、思ってもみなかったからだ。

しかし、同じ年でクラスも一緒だっつうのになんか変なものを感じてしまった。

「和君は8月生まれで、ゆうじは10月生まれだから、一応はかずくんが義兄さんになるね。」

「自分よりチビなヤツが兄貴だなんてなんかへんなのー」

「こらゆうじ!」

「まあ、仲良くしようぜお兄ちゃん」

<お兄ちゃん>と嫌みったらしく言われたとき、俺はこう思ったんだ。絶対こいつよりでかくなってやる!ってね。


********


「しっかしよー」

「なんだよ」

「おまえって背ぇのびねーな」

ゆうじが隣の俺の頭をポンと叩いた。

「ほっとけっ!」

またぽんぽんと叩きながら

「で、いったい何センチ?」

「158センチ」

「うそっそんなに低いのか?」

むかっ

「そーゆーお前は何センチなんだよ」

「172センチ」

俺は何も言い返せなかった…なんかすごくむなしい

「でもおまえけっこー女子に人気あんだぜ。知ってっか?」

「え、ホント?」

「うん。かわいーって」

がーん!

さっきよりももっとむなしくなったような気がした。


**********


あーなんの因果でこんなことにー…

これも全部ゆーじのせいだ!

今朝あのあとゆーじと盛大に喧嘩して(いつものことだけどさ)後の始末を全部俺におしつけて学校に行きやがって!

おかげで先生の拳骨+トイレ掃除をもらってしまった。

はっきし言ってすげー嬉しくない!

思わず「トイレ用」と書かれたバケツを抱きしめてしまうよ俺は。

「お前何やってんだ?」

ふいにトイレに声が響く。

ふりむくとゲゲ!同じクラスの青木!

青木はにたぁっと笑うと

「ぎゃーかずがートイレ用のバケツ抱きしめてる~ケケケっ言いふらしてやる~」

「わわーっ」

青木はトイレトイレを連呼する。

青木はいいやつだ。

たった一つのことを除いて。そのたった一つとは

「かずよ!俺に知られたのが運のつきだったな!お前の奇行はこの学校1の情報屋青木栄一がしかと見届けた!」

これさえ無ければ…

青木はこの前も学校のアイドルバレー部のキャプテン(男)の上半身裸の写真を女子に売りさばいて儲けてたし嫌味な英語教師の机にエロ本があるってこと知ってて脅してたし……

このトイレのバケツ事件も青木にかかれば3分で学校中に広まる……

血の気が引いた。

俺はとっさに叫んだ。

「明日の昼おごるから!見逃してくれ」


**************


「ラッキー明日から3日間昼飯代ただー♪」

青木め…足元見やがって…

「しっしっ、用が済んだら出て行けよ!掃除の邪魔だ邪魔」

精一杯冷たく言ってやる。べーだ。

早く出て行けバカヤロウ。

ところが青木は帰るどころか

「あーそうそう。ゆーじがなぁまたすねたんだわ」

へっ

「えーまたー?」

「そ!出番ですよ~」

がくっ

あーもういやだー。

「お前らってさーもうなんか保護者と子供みたいだな」

ふん。全然ちゃうわい。

あいつは子供ほどかわいくないわい。

「ま、とりあえず早く行かないとゆーじによる被害が広がるから行くぞーかず」

青木がぽんと肩を叩く。

「はぁぁぁぁぁ」

重いため息をつき、石鹸で手を洗うと今頃荒れ狂ってるだろうゆーじのところに向かうのであった。


*********


被害現場。

青木の仕事はその被害現場をいち早く知り、俺に知らせること。

じゃない!!

毎度毎度青木に見つけられては

「大変だーかずー。ゆーじが面白いことになってるぞー」

じょーだんじゃない!いい加減にしてくれよ!

俺は保護者じゃないんだよ!

ゆーじはいつも面倒なこと起こすし青木はいつも俺に全部知らせるから必然的に巻き込まれる。

無視したくても出来ない性格なんだよ俺は…!

今日は厄介ごとじゃなきゃいいけど…と祈りながら現場の購買に着いた。

軽く言い争ってるのをなだめて話を聞いてみるとコロッケパンを横から掻っ攫われたとのこと。

呆れて声もでない。

こんな我侭野郎がなぜ嫌われんのだ。世の中不思議だよ。みんな心が広すぎる。

「お前はもう自分が思うとおりに生きていけ」

俺はそれだけ言うと早く帰りたいと思ってかばんをとりに教室に戻ろうとした。

が。

「あーかず、かばんなら持ってきた。運び賃にコロッケパン代もらっといた」

その言葉と

「俺の3回分の昼飯も忘れるなよー」

の言葉が俺の頭に殴りこみをかけてきた。

ゆーじが事件を起こすと必ず俺に被害がある…。


************


そんな俺のたったひとつの気休めは…同じクラスの女の子。この前の席替えでラッキーなことに窓際の列で一番後ろの席になった。おまけにその子は俺の前の席なんだ。もう気分はサイコーさっ!

「かーず」

「なんだよ青木」

「俺さ。今日の昼飯うどん定食がいい。それとおやつにカツサンド、コーヒー牛乳、チーズロールね」

「あー!青木お前だけずるいぞ!かず、俺にもなんかおごれ」

…そうこいつらさえいなければ、俺はあのまま幸せにひたってられたんだ。その幸福の目をぷちぷちつみやがって!

「青木、お前なんでおやつなんかいるんだよ!?」

「クラブ終わったあとムチャ腹減るし」

「お前なんかクラブやってたっけ?」

「フフフそうか、知らなかったのか。俺はなー」

「早く言えよ」

さっきまで黙ってたゆーじが口を挟む。

「俺は今を輝くバレー部員さ!」

「なんでバレー部が輝くんだよ。それを言うならサッカー部だろ」

「バレー部なめんな。バレー部にはアイドルとして名高いキャプテンいるし廃部が決まってるサッカー部など恐れるるに足らんわ」

「毎回1回戦止まりの弱小チームが」

「なんだとー!」

「………」

なんで俺が青木のクラブ聞いただけで、そこまで話が進むんだよ。

まあ二人とも言ってることは正しいけど。

「かずは陸上部だろ?」

ゆーじが青木との言い合いをやめて俺に言った。

「うん」

「いーよな陸上部は。どんな馬鹿でも走ってりゃいいもんな」

今お前は全国の陸上部員を敵にまわしたぞ。

「陸上部って大会があるごとに賞状もらってんだろ?すごいよな」

青木のやつがめずらしいことを言った。

「まーね」

「でもかずはもらったことないよな。」

「うっ…」

「それに大会にも出たことねーんだろ?」

青木のやつがトドメを指した。俺の身も心もこいつらの一言一言でずたずただ。

「やっぱスポーツは球技だよな」

「うんうん。ひとつのボールをチーム皆で追ってゆく!」

「そう!それこそが青春というものなのだ!!」

「陸上は個人競技だよな」

「うん……?」

「と、ゆーわけで、お昼よろしくな!」

「おれも!」

おいおいおいおい…どこをどうつなげたらそうなるんだよ。

こいつら俺をいじる時だけなんでこんなに息が合ってるんだよ。


********


「ねぇ、ゆうじ君」

昼休み、青木とゆうじに財布を奪われ二人をやっと見つけたときには俺の財布の中身はうどん定食や青木のおやつと化していた。

青木のやつは約束してたけど、なんでゆーじのやつが俺の金でカレー食ってんだ。

中身のなくなった財布を眺めながらため息を落としたときだった。

あの子が俺の隣にいるゆうじに声をかけたのは。

「なに?立花」

「あのね、ゆーちゃん、って呼んでいい?」

「ぶっ」

俺は思わず噴出してしまった。ゆーちゃんだって?あのゆーじがゆーちゃん?

「…ごめん、変だった?」

「いや、俺は別にいーけど」

「じゃあ今度からそう呼ぶね」

「うん」

あの子、立花晶とゆうじは俺と青木をのけ者にして楽しそうに話していた。だから俺が一人笑い転げて、青木がいなけりゃ椅子から転がり落ちていた、なんてことは多分知らないだろう。そして俺の気持ちも。

立花は本当に楽しそうに喋っていた。ゆーちゃんと。


********


部活が終わり、俺が着替え終わって部室から出ると立花がいた。そーいえば同じ陸上部だっけ。

「一緒に帰っていい?」

「えっ」

い…今なんて?

立花も俺のこと………。

「ゆーちゃんと帰るんでしょ?」

「…うん…」

俺の頭の上で石が砕けた音がした。

俺を待ってたのはゆーじがいるから?

俺と帰る=ゆーじとも帰れる…。

頭を殴られた気がした…ゆーじか。少しでも期待した俺は馬鹿だ…。

一緒に帰るときに立花はゆーじから「しょうちゃん」って呼ばれてるし。

「……なんでしょうちゃんなんだよ…」

「俺だけゆーちゃんだと不平等じゃんか。あきらって字はしょうとも読むのだよ小学生」

「小学生って!」

「かず背低いよなぁしょうちゃんより低くないか?」

「立花よりは高いよ!」

思わず言うとゆーじはニタリと笑った。

「よーし、じゃあ背比べしよーっぜ!」


*********


俺と立花は背中合わせに立つ。

背中があたり緊張する。

近くてドキドキして、心臓の音が立花に聞こえそうだ。

顔が赤くなってるのが自分でもわかった。

「うーん。2センチほどしょうちゃんのほうが高い」


……


「そんなバカな!!!」

「本当本当」

ゆーじが俺にとって残酷な言葉を軽く言う。

が、ふと立花を見ると軽く彼女を見上げてた。

初めて気づいた俺は真っ白になってしまった。

おかげでせっかく立花と帰れたのにほとんど喋れなかった。

まじでか……。


**********


放課後のグラウンドは野球部が広い面積を占めている。

だから俺達陸上部員はグラウンドのすみっこで走ったり跳んだりしなきゃならない。ゆーじのいるサッカー部はというと…ちらちらグラウンドの方を見ながら、くつろいでいたりする。おいおいおい。

まあ、顧問の先生がいなくなっちまったから仕方ないけどさ。

俺は思いっきり走って、そして跳んだ。

そのとき視界に立花が入ってきた。


カラン


あ…。

俺はバーを落としてしまった。もし立花が視界に入ってなかったら、多分跳べていただろう。べつに立花のせいにするわけじゃないけど。

「先輩」

今の立花に見られたかな…?

「先輩、藤浦先輩」

え、俺?

「早く降りてくださいよ。次跳べないじゃないですか」

「あ、ごめん」

マットから降りてのろのろ戻る途中、跳んでるやつをみるとかるがるとバーの上を越えていた。

あーあ、俺って1年に負けてやんの。情けねー。

自分でそう思ったものの、なーんかやる気が出ない。

もうどうでもいいやーって感じで。頭がぼーっとしてる。

「かずくん」

立花が声をかけてきた。今の見られたかな?

ぺとっ。いきなり俺のおでこに手をあてた。

ドキドキドキ…

「かずくん、熱あるよ」

ドキドキドキ…え?

「うそ…」

「ほんとだってば。顔も赤いよ」

そ…それは立花がこんなことしてるからです。

ドキドキドキ…

心臓の音が鳴り止まない。

でも言われてみれば身体が熱い気もする。

頭もぼーっとしてくる。

一瞬目の前が真っ白になったと思うと

グラッ

「かずくんっ」

ドターッ

俺の記憶はそこで途切れた。


******


目を覚ますと……ゆーじの顔がドアップで見えた…。

「かず、生きてるか?」

目を開けたんだから生きてるに決まってるだろ!

声を出して言いたいけど、なんか喋るのもだるい。

それにしてもどーせなら、目を開けて一番に立花の顔が見たかった…。なんでゆーじの顔なんか…せめて保健室の天井とかさ。

「かずくん、大丈夫?」

ゆーじの隣に立花がいた。

「うん、もう大丈夫」

起き上がろうとすると、目の前がぐらっととした。

「無理すんなよ」

ゆーじに抑えられて俺の頭は枕に逆戻り。

「でもびっくりした。いきなり倒れるんだもん」

「……」

今思うと、すごく恥ずかしい。好きな子の前で男が倒れるなんて。

「俺が保健室まで運んでやったんだぞ」

「ゆーじが?」

なんか意外。

「かずくんが倒れたときに、なんでか知らないけど来てくれたの」

「なんでか知らないはないだろ…」

「じゃあ、なんで?」

俺が聞くと

「たまたま陸上部のほう見てた」

「あ、そう」

「お前なんだよその態度はっ」

「……」

「俺がわざわざ運んでやったんだぞ」

………

「ど、どうやって…?」

「そりゃ抱きかかえて」

サーーーーーー

俺の体内の血が一斉に引いた。

「あれ、今度は青くなってる」

「お前はコバルト紙か」

ゆーじが俺を馬鹿にするけど、そんなことどうでも良かった。

何が悲しくて好きな子の前で男が男に抱きかかえられなきゃならないんだよ!

こりゃ倒れるのよりひどい。

「かず、お前軽いな」

「そ…そうか?」

「かずくんて何キロあるの?体重」

「39キロ…」

「うそっあたしより軽い!」

「そりゃ俺立花より身長軽いもん…」

「そうじゃなくてもお前軽いよ」

「いいなぁ軽くて」

ゆーじと立花が俺に話しかけてるけど、もうそれどころじゃない。

今日は不幸な日だ。

神様は本当に俺を嫌っているようだ。

これは今までの俺が味わったことのない3大不幸といえるだろう。


********


俺は次の日学校を休んだ。

38度という高熱と三大不幸によるショックが原因だと思う。ということで、今日は部屋でお休み。

「で、なんでお前ここにいるの?」

俺のベッドの上に座ってのうのうと漫画読んでるゆーじに問う。

「学校はどーした学校は」

ゆーじは読んでいた漫画を閉じるときりっとした顔で答えた。

「かずが熱で学校に行けないのに、俺一人が行けるわけないじゃないか」

「お前がいると下がる熱も下がらん。サボりたいだけだろ早く行け」

「もう無理だよ。学校にかずの熱が高いから俺も休むって電話しちゃったもん」

こいつは!

「まぁ、熱があるんだから落ち着いて」

殴ろうとした俺をゆーじは押しとどめる。

「一人じゃ寂しいと思って、一緒の部屋にいてあげる」

「お前暇なだけだろ」

「今日は4組調理実習でマフィンだったのをけって、家にいてあげてるんだから感謝してほしいもんだ」

「お前当然もらえるものだと思ってるだろ」

でもこのお調子者が、そんな日に学校を休んで家にいてくれるほど心配してくれてるんだな……。

「だから元気になって早く朝ごはん作ってね、かーず君」

……俺の感動を返せ。


******


「昼何食べる?」

「おかゆ食べたい」

「かず、出前におかゆとかない」

「お前作らんの?」

「なにお前、俺の手料理食べたいの?」

「……雑炊。うどん屋の出前にあるだろ」

「…オッケー。雑炊な」


*******


「おっまちどぉー」

ゆーじがお盆を持ってやってきた。

上には器が二つ。

「なんだよお前も同じにしたの?」

「同じにしとかないと相手が食ってるのも食べたくなるだろ」

「そんなもんかね?いただきます」

「おう食え食え。……うまい?」

「うん。うまい、けど」

「それ、俺作ったやつ」

「……まじで」

ゆーじが料理上手いとか意外すぎるわ。

「父さんと二人だった時は一人で飯食ってたしな。今は父さんも母さんも、かずもいるからしないだけで。」

なるほど…。なんか…


ぴんぽーん


ちょうどその時、チャイムがなった。


********


「た、立花」

「えへへ。おじゃましまーす」

しばらくして入ってきたのは立花だった。

「ゆうじは?」

「あ、今紅茶入れてくれてるみたい」

あいつ…俺は布団に入ってんだぞ。情けねーカッコ見られちまった。

「熱高いの?」

「38度くらい…かな」

「おばさんは?」

「かーさん仕事」

「お仕事忙しいんだ……」

「まあね。一応社長だし」

「え、うそ!社長さんなの?」

「うん、モデルクラブのね」

「へぇーすごいんだ。」

「…うん…」

なんかまただるくなってきた…。眠い…。でも立花の前で寝れるわけないし…。

「…ごめん。ちょっと喋りすぎた?」

「ううん…」

立花に気を使わせていしまった。俺のばか…。


がちゃ


「やっほーい。かず、生きてるかー?」

紅茶を持ってきたゆーじの隣にいたのは青木だった。

「あ、青木…」

「かーっ情けねーカッコしてんなー」

「……」

「お、立花も来てたんか」

「青木、静かにしてろよ。かずは病人」

「あ、すまん」

「ゆーちゃんって優しいね」

「まーね、かずは俺の兄貴だし」

「ぶっ」

「なんだよ」

「いや、別に。そういえばかずのほうが二ヶ月早いんだっけな」

「何が?」

「誕生日」

むかっそんなことで笑ったのかよ。そりゃ俺が兄貴だっつうのは、おかしいかもしんないけどさ。

声に出して言いたい気もするけど面倒くさい。眠い…。けど今寝るわけにはいかない。でも…まぶたが重くなってきた。あーもーだめだー…。

「ありゃかず寝たよ」

「ほんと。…かわいー」

「俺は帰るぞ。こいつが寝ちまったらつまらんから」

「あ、あたしも帰ろうかな」

「まー二人とも紅茶飲んで帰ってよ。せっかく入れたんだから」


********


目を覚ますと部屋の中は真っ暗だった。

そー言えば寝ちゃったんだっけ。今何時くらいだろう。

俺は電気をつけて時計を見た。

7時半過ぎか。

母さんは今日も遅いだろうな。倒産は…残業かな…。

もしかしたらゆーじはまた一人で夕食を食べてるかもしれない。

がちゃ

ゆうじが入ってきた。

「あれ、かず起きてた?」

「うん、さっき目が覚めた」

「ならちょうどいいや。おかゆ食べれるか?」

「うん。ゆーじ作ったの?」

「まーな」

「父さんはまだ帰ってきてないの?」

「うん。でも今日は8時頃には帰ってくるってさ」

「ふーん…」

ごつん。

ゆーじの顔がドアップで見える。

び…びっくりしたー。

でこで熱を測るな。手でやれよ。

「まだ下がんねーな」

「大丈夫だよ。明日になったら下がってると思うから」

「そーかなー」

俺が休んだらゆーじも休まなきゃならないんだっけ。母さんいそがしーからな…。


*******


ピピピピピ…プチ

「ゆーじっ起きろよっ」

「んー…」

こいつはー…俺が元気になったとたんこうだからな…

「俺はおもう行くからなっ!」

「え、なんで?」

ゆうじが飛び起きた。

「朝練があるんだよ」

「そんなのいーじゃん。それより俺の朝ごはーん」

……今度からゆーじを起こさずに行こう。こいつ、最近朝練ないから時間合わないし。

…でもこいつ料理できたはず……。朝飯くらい自分で作れると思うんだけど。

「かずくん、君は昨日まで高熱でうなされてたんだ。無理するのは身体によくないと僕は思うよ」

なにを抜けぬけと。

「とりあえず、俺は行くからな」

「……あ、そーか。しょうちゃん陸上部だもんな」

どきぃ!

こ、こいつは突然何を…

「こんな朝早く、それも寒いのにただ走りに行くヤツはいないなぁ」

何が言いたいんだこいつは!そんなこと思ってるのはお前くらいだよ!

「この寒い中、しょうちゃんに会いたいがために、無理をするなんていけないよ」

「あーのーなー」

「まぁ別に行ってもいいけどさ。でもかずが行っちゃったら俺は一人寂しく朝ごはんを食べることになるんだよなぁ」

「…しょうがねーな…」

「やりー!さーかずくん、キッチンへどーぞぉ」

ゆーじの態度がコロッとかわった。

暗い過去をたかが朝飯に利用しやがって。結局朝練をサボってしまった。でもゆーじの言ったことも違うをは言い切れない。


********


「はぁぁぁ」

「どしたかず、何かあったのか?」

青木が興味津々で俺を見ている。

「なんでもない。あっちいけ」

「そんなこと言って、好きな子のことでも考えてたんだろ?誰だよ言っちゃえよ」

「お前に言うくらいなら今すぐ告白するほうがマシだわ」

「まじでか。ついてくわそれ」

「そんなに俺の好きな子が気になるもんか?」

「うん。人のゴシップは面白い」

「……青木、バレー部やめて新聞部に入れば」

「青木はバレー部で青春謳歌してるからねぇ」

ひょいっとゆーじが沸いて出てくる。

「そーそー俺は青春はバレーに燃やすんだ。将来は雑誌記者になるけど」

「青木が雑誌記者になったら世界のいろんな人が大迷惑だよ」

俺はそうつぶやくとがっくりとうな垂れた。

こいつらは俺の悩む時間すら奪っていく。

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