第二話「概要」
父の話をまとめると、こうだ。
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父が夜七時頃、仕事場の家の居間でテレビを観ていると、書斎の方で物音がした。
気になって父は仕事部屋に向う。
すると、顔に目出帽を被った黒ずくめの男――体格から判断したらしい――が仕事部屋の鍵を抉じ開けようとしていた。
――何をしている!?
父はここで犯人にそう言ったという。
男はさすがに驚いたようで、数秒動きは止まったが、すぐに抉じ開けるのを止めて右手をサバイバルナイフに持ち替えた。
――この扉を開けろ。
そう言った男の声は機械を通したような声だった。父曰く、目出帽の口元に変声機をつけていたのだろう、とのことだ。
男がナイフを片手に近づいてくる。両手は手袋で覆われている。身の危険を感じた父は
――わ、わかった。
と答えた。
その後、鍵を犯人に渡し、父は犯人と共に仕事部屋に入った。
男は部屋を見回した後、言った。
――この金庫を開けろ。
他のものには目もくれていなかった。
その金庫は仕事の機密情報を保存するためのものだった。
――何でこれを開けるんだ? 金なんて入っていないぞ。
父がそう言うと男は
――うるせぇよ!! 俺は開けろって言ってんだよ!!
と、怒りを露にした。
短気だから、何をするかわからない。
父は男をさらに警戒したという。
その金庫は特殊なもので、父の特注品らしい。
その金庫には暗証番号を入れるところの上に四桁の数字が彫ってある。暗証番号も四桁なのだが、その数字を入れても開くことはない。
どうやって開けるのかというと、その四桁の数字を父の頭の中にある数学のある『公式』に代入し、計算して求めた数を暗証番号として入れなければいけない。
父はナイフに怯えながら、犯人にそう説明した。
さらに、一桁ずつ数字は求められるので、忘れないようにメモして欲しいと頼んだ。
――犯人に。
一応、確実性を高めるために頼んだというのだが、さすがに父が無用心に見えた。
しかし、犯人はしばらく考えた後、承諾した。声に苛立ちが含まれていたらしいが。
承諾を得た父は近くにあったメモ紙を一枚破って犯人に渡した。それから胸ポケットに入っていたペンを渡した。
僕が病室に来た時、父が愛用のペンを持っていなかったのは犯人に渡したからだったのだ。ペン自体は現場に残されているという。
『愛用』と言っても、僕はそのペンを父が使ったところを見たことがない。しかし、一度父の胸ポケットから抜いて使おうとした時、凄い剣幕で父に怒られたことがあるため、そのペンは父の大切なものだと知ったのだった。
そのペンを犯人に渡すほど、父は動転していたのだろう。
その後、父は計算を始めた。
なかなか難解な公式を利用しているので、一桁求めるのに五分近くかかったという。
次第に犯人がイライラしていくのが、手に取るようにわかった。
――早くしろ!
と犯人は焦ったように言っていた。
父は犯人に求めた数字を伝え、メモをさせながら計算を進めていた。
やっと四桁を求めた時、犯人は父を金庫から遠ざけさせ、父が求めた暗証番号を入れた。
結果は――ERROR
暗証番号が違います、だった。
――なんだって?!
父は声を上げたという。
――おい、てめえ。まさか、時間稼ぎだったんじゃねぇだろうな?!
犯人は逆上して、またナイフを持って近づいてくる。
――ち、違う。本当に間違ってしまって......
父は弁解したらしいが、犯人は聞き入れずナイフで父に斬りかかった。
その結果、父は腕や腹などに怪我を負った。
痛みに呻いている最中に犯人は無情にもこう言ったという。
――早く開けろ。さもないと殺すぞ。
父はいよいよ犯人の殺気を感じて、必死になってもう一度計算した。
なんとか、はじき出した数字を犯人が入れる。
――金庫は、開いた。
その後、犯人は金庫の中身を盗んで、父を気絶させた。その時に使ったスタンガンは現場に残されていた。
そして、父は気がついたら犯人は逃げた後だったらしく、警察に連絡した。しかしその直後、出血多量で父は再び気絶した。
もう一度気がついた時、父はこの病室いたという。
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「以上です」
父は低い声でそう言って、話を締めた。