プロローグ:【起動:ストーリー・ダイバー】 〜それは、世界線を書き換える能力〜
始まりは、数日前のよく晴れた夜のことだった。
いつものようにベッドに寝転び、スマホでお気に入りのWEB小説や漫画を読み漁っていた俺の頭の中に、突然、無機質な電子音が響き渡ったのだ。
【警告:適合者の精神波長を検知。これより【物語干渉能力】を起動します】
最初は、仕事の疲れが見せたただの幻聴だと思った。
だが、その声は本物だった。
システムが告げたその能力の概要は、あまりにも荒唐無稽で、そしてオタクである俺の心を激しく揺さぶるものだった。
俺に目覚めた能力。それは――大好きな小説や漫画、あらゆる『創作物の世界』の内側へダイブし、そのストーリーを自らの意志で書き換えてしまう特殊能力。
ダイブしている間、現実世界の俺の身体は『深い睡眠状態』になる。
そして精神だけが、物語の登場人物の肉体へと同調し、その世界のタイムラインに直接干渉することができるのだという。
ただし、この能力には絶対のルールがあった。
それは、ダイブできるのは**「自分がその作品をどれだけ深く愛しているか(原作愛)」**に比例するということ。そして、一度書き換えたプロットは二度と元には戻せない、一発勝負の現実だということ。
「物語を、書き換える……」
俺の脳裏に、真っ先に浮かんだ作品があった。
いまWEBで大人気の中年男性とギャルの日常系ヒューマンドラマ。
どこまでも優しいのに、どこまでも臆病な42歳の主人公・敷島。
そして、孤独を抱えながら昼と夜で『二つの顔』を使い分ける24歳のヒロイン・ほのか。
コミックスをめくるたび、「頼むから気づいてくれ」「彼女を救ってくれ」と、何度胸を痛めてきたことか。原作の二人は、お互いを想い合いながらも一歩を踏み出せず、じれったいまま時間だけが過ぎていく。
「システム。俺の最初のダイブ先を――あの日常漫画の世界に指定する」
【了解。対象世界へのアクセスを開始します。干渉者の『原作愛』により、敷島の肉体との同調率、100%――プロット・ドライブ、起動】
視界が強烈な白い光に包まれ、俺の意識は現実のベッドから、大好きなあの紙の裏側の世界へと、深く、深く堕ちていった。
二人の未来を、俺のこの手で本当のハッピーエンドへ導くために。
(プロローグ・終わり / 第1話へつづく)




