プロローグ
このサイトに投稿する三作目です。今回は少しファンタジー要素を加えた物語となっております。スローペースの更新になると思いますが、感想等いただけると嬉しいです。
真夜中の図書室。
夜色に塗りつぶされた部屋の闇にまぎれて、静かに佇む一つの影があった。
厚い雲の隙間から覗いた月が、その人物の白い頬を幽鬼のように浮かび上がらせる。学校指定の学生服に身を包んだ彼は、青年というにはまだ顔立ちに幼さを残し、少年というには大人びた雰囲気を放っていた。
彼が癖のない黒髪を無造作にかきあげると、均整のとれた繊細な顔立ちが露わになる。
不意に視線をあげると、彼はガラス越しに注ぐ月の光に目をすがめた。
「まったく。満月が近くなると途端にこれか」
ため息混じりに呟いた彼の手には、一冊の古びた本があった。表紙は日に焼けて色が褪せ、所々に染みがついている。
彼がそれを月の光に翳すと、表紙に刻まれた文字が淡く発光し始めた。
「さて。今夜もいくか」
誰に聞かせるわけでもなくそう独りごちると、そっと本の頁を繰る。
刹那、部屋中に青白い光がはじけ、あっという間に彼の姿をのみ込んだ。尚もあふれ出る光によって、辺りが白い闇に塗りつぶされる。
暫くして、部屋を満たした光が再び本に収束したときには、図書室には誰の姿もなく、ただ静寂がその場を支配するだけだった。