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自爆から始まる異世界転生  作者: 江戸エド


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5/16

 街道から外れた雑木林の中にクソ重い皮製のタープを張って、その下に即席のかまどを作って夕食を作る。荷車にしがみ付いているだけで力尽きた私を除く5人で。

 今の季節は初夏に入る前なのか、あるいはもう初夏なのか。風が吹かなければ寒さを感じることは無い。でも地面、てめーはダメだ。絨毯を敷いてもひんやりとした冷気が体に浸み込んで、我慢できなくはないけど翌朝になったらすげー体がだるくなりそうな予感というか、絶対そうなる未来が見える。


 「何処行くの?トイレ?」

 絨毯の下に敷く落ち葉でも拾いに行こうと思ったが、心配そうな顔をしている西園寺さんの顔を見たら、自分でやろうとしたことを西園寺さんに「私がやるから」と言われて私の代わりに西園寺さんが落ち葉を拾うことになりそうだと思い「トイレ」と嘘を言って少し離れた茂みへ行こうとしたら、変態怪力清楚西園寺さんもついて来た。

 「田中さんだけじゃ何かあった時に対処できないでしょ」

 ぐうの音も出ない正論だ。

 これからは敬意を込めて、ぐう聖の西園寺さんと呼ばせて頂こう。 

 いや待て。今回は小だから聞かれてもそこまで恥ずかしくはないが、大はさすがに無理だ。たとえ死ぬことになっても悔いはないぐらいに無理だ。

 

 「本当に大丈夫なの?」

 待っている間ひまなのは分かるけど、用を足すことに集中している人に声をかけるのはマナー違反だと思う。

 「何で一回だけなの?」

 勘のいいメスガキだ。

 「私に加護をくれた神様がケチだから」

 でなきゃ皆を元の場所に戻せたかもしれない。

 

 夕食は根菜を食べやすい大きさに切って塩水で煮込んだ、ギリまずくないスープとのこぎりみたいなナイフでギコギコ切った、ずっしりと重たくて歯ごたえのある食べたことのない味のパンと癖のある臭いのチーズを食べた。

 「なあ、もし今日通った道の何処かで待ち伏せをするとしたら、どこが良いと思う?」

 陸上部の篠山君の問いに答えられる人は一人もいなかった。

 「なあ、俺達ってすごい無謀なことしてるんじゃないか?」

 そりゃ軍人でもなければ、知識も経験もない素人なんだから無謀に決まっている。でも誰もそれを口にしなかった。

 それでも自分達ならうまくやれると思ったのか、思いたかったのか。篠山君もそれ以上は問わなかった。

 

 翌朝、昨日と同じ様に跳ねる荷車から跳ね飛ばされないように荷物を縛っているロープにしがみ付いていたら、荷車が急停車して、その急減速についていけなかったうつ伏せだった私の体がひっくり返ったカエルのような仰向けになった。それは純潔の乙女にあるまじき体勢で、許されざる(はずかし)めであった。

 私は意図せず見上げることになった青い空に復讐を誓い、上体を起こす。

 「だれ?!」「どうする?!やるか?!」「待て!あれは真田君だ」


 私達とは逆の方向から人間とは思えない速さで砂煙を上げて走って来る誰かに動揺していたみんなは、篠山君の「真田君だ」の一言で安堵の表情を浮かべてほっと胸をなでおろした。


 (やっぱ無茶だよ)

 覚悟を決めたと言っても、所詮は喧嘩一つした事の無い暴力とは無縁の少年少女たちの覚悟だ。いざとなれば動揺して武器を構えることすら出来ていなかった。

 (だからこれで良かったんだ)

 本音を言えば無力な振りをして逃げたかった。逃げたかったけど……それで誰かが傷ついたり死んだりしたら……それでも私は平気な顔をしていられる?いいえ。私の面の皮はそこまで厚くはないし固くもない。

 (良かった)

 私は安堵した。私の選択は間違っていなかったと。

 

 「見つけたぞ。凄い数だ」

 街道を先行していた真田君と合流した私達は、真田君の「騎兵が街道を偵察してる」の警告に従って、街道から見えない茂みの中に身を潜めて情報の共有をした。


 「あれは異教徒というより、異種族と言った方が正しいと思う」

 真田君が言うには、こちらに向かっている軍勢は二足歩行の獣、私達の世界で言う獣人らしい。

 私の脳裏にケモナーさんたちが涙を流して歓喜している光景が浮かんだが、真田君の一言で私の脳裏で大騒ぎしているケモナーさんたちの表情が凍った。

 「あいつ等は人間を食う」


 真田君が言うには、逃げられないように簀巻きにされた人間が馬車の荷台に積まれていて、そこから運び出された人間が調理される光景は昔見た地獄絵図そのままだったという。


 なんか胸からお腹の辺りにかけてがそわそわして落ち着かない。これがいわゆる肝が冷えるって言うやつなのかな。

 とにかく、今すぐ引き返したくて仕方ない気分だ。

 「どうするにしても、一度見てみた方がいい。その方が覚悟も決めやすいと思う」

 どんな敵と戦うのか、どんな敵から逃げるのか、知っておいて損はないし、今回みたいに分からないから判断に迷うという事も無くなるだろう。 

 

 私達は真田君の案内で桐生君が陣取っている小高い山に向かう。もちろん人食い獣人に見つかるかもしれない街道は避けて行く。私が乗った荷車を四人で担いで。

 自転車くらいあった移動速度は、藪漕(やぶこ)ぎによって歩く程度に落ちて、でこぼこの不安定な地面のせいで揺れは倍以上に大きくなった。

 それは遊園地のアトラクションみたいで最初の数分は楽しいと感じられたが、それが一時間も続けば、もうやめてくれと泣いて懇願したくなるくらいの苦痛になる。


 休憩で荷車から下りた私の、荷車から落ちないようにずっとロープを握り締めていた手の握力は、驚異の0キログラム。水分補給にと渡された水の入ったコップを掴めなくて、猫みたいなぐーの手でコップを挟んで水を飲んだ。

 「歩いた方が楽かも」

 私のぼそっと呟いた愚痴に、西園寺さんが首を横に小さく振った。

 「歩く方が大変だよ」

 わっしょいわっしょいと壊れそうなくらい揺らされている神輿並みに揺れていた荷車より歩くの方が大変とは?と私の頭に疑問が浮かんだが、彼等が通って来た上ったり下ったりの起伏に富んだ地面を見て納得した。

 でももう私には荷車にしがみ付いていられる握力が無い。

 かといって荷車を一時間もわっしょいわっしょいしていたのに涼しい顔をしている連中と同じ様に歩けるかというと、絶対に無理だろう。

 歩き出して10分もせずに、汗だくで泣きべそをかいている情けない自分の姿が容易に想像できる。


 「乗りなよ」

 私の前でしゃがんだ西園寺さんの背中は女性らしい華奢なものだったが、とても頼りがいのある魅力的な乗り物、いや背中に見えた。

 「いやでも……」

 「いいから、ほら、遠慮しないで」

 そうかい?それなら、遠慮なく乗っちゃおうかな。

 と西園寺さんの背中に乗ったら、トラバサミみたいに膝をがっしりと拘束されて、立ち上がった勢いに負けて体が後ろに倒れそうになって、つい西園寺さんの首に抱き着いてしまった。


 「うふっ」

 なんだいその気味の悪い喜悦声は。

 「ありがとう」

 「うふっ。いいよ。今の私には猫を背負っているようなものだから」

 「……うん」

 おかしい。私も西園寺さんも昨日から一度も体を拭いていないのに、西園寺さんの体からは風呂上がりのようないい匂いがしている。


 見た目が清楚なら汗の匂いも清楚だというのか?そんな……そんな理不尽がこの世には存在するというのか?!

 おのれ西園寺。サウナ地獄で貴様のその匂いを絞りつくして我輩の香水にしてくれる!

 

 時刻は17時半前。真田君が案内してくれた小高い山は、川幅のある川のすぐ側にあり、獣人たちの野営地はそこから五百メートルほど上流の両岸にあった。

 獣人たちの動きを一人でずっと観察していた桐生君によると、今日はずっと小舟と(いかだ)を使って私達の居る対岸に人と物を運んでいたらしい。

 「悪いけど……今は眠りたい。何も聞こえない、安心できる所で」

 話を聞いた桐生君は、疲れているというより憔悴(しょうすい)しているといった感じで、真田君と一緒に山の下に置いて来た荷車の見張りをして貰う事にした。

 桐生君が言うにはそろそろ始まるそうだ。獣人たちの人を食う前の下拵えが。 

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