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朝食を終えた私は、見た目も声も清楚の変態西園寺さんの提案で、変態西園寺さんの話が真っ赤な嘘でなければ、クラスメイトたちが私達を取り囲んでいた兵士や騎士たちをぶちのめして奪取した城の中を散策する。
「私達は彼等が信仰している神様たちによってこの世界に連れて来られたんだって。彼らと対立している異教徒たちと戦う英雄として」
城の中は閑散としていて、ついさっきまでここで人が暮らしていた跡はあるのに人がいない城の中を歩いているみたいだった。
「ほらね」
防壁の片隅に攻撃用に積み上げられていたソフトボールくらいある石を一つ手に取った変態西園寺さんが、如何にも素人の投球フォームで城の外に向かって投げると、ソフト―ブル大の石が場外ホームランくらいの放物線を描いて飛んで行った。
本当は軽いのかと試しに持った石は想像通りの重さで、こんな物を全力で投げたらプロ野球選手でも一投で肩と肘を壊すだろう。
それを変態西園寺さんは幼児用のカラーボールを投げるような気軽さで、ソフトボール大の石を場外ホームランかと思うくらい遠くまで投げた。
「私に与えられた加護は〈巨人殺し〉。剛力と投石の能力を使えるの」
加護は私達をこの世界に連れてきた神様たちから与えられたもので、一人一柱から加護を与えられているらしい。
「加護と能力を調べるには、神殿にいる巫女に視てもらう必要があるんだけど……」
変態西園寺さんの予想によると逃げ出している可能性が高いらしい。
「二、三日中に異教徒たちが攻めてくるんだって」
異教徒の兵数は十万以上に対して、この城にいた兵力は三千。
城の防壁の上から見える城下街に人気は無く、その外に広がる農村で働いているのは逃げる術を持たない貧しい農奴たちだという。
「そこで祈祷が行われることになったの。異教徒からこの地を守るための英雄を使わせてくださいと」
最後に意識を取り戻した私は、あの人達とクラスメイトの間でどういったやり取りがあったのか知らないけど、あの人達の態度は神様にお願いをして遣わされた使徒とも言える私達に対する態度ではなかった。
「あいつらの願いは叶えられた。でもあいつ等は私達の扱いを間違えた」
誰かに羽交い絞めにされて気を失っていた私は見ていないが、クラスメイト達は私達を取り囲んでいた兵士や騎士たちを一人残らずぶちのめしたらしい。
この説明を聞くのはこれで二度目だが、未だに信じられない。あの一目で分かる屈強な体をした完全装備の野郎共と学校の制服を着たムキムキでも武術の達人でもないクラスメイト達が戦って無傷で勝つなんて。
変態西園寺さんがまた石を手に取ってそれを両手でひねる様に力を込めると石が割れた。
驚きで声が出なかった私は、拍手で変態怪力西園寺さんを称えた。
(さすがは私達の世紀末覇者、変態怪力清楚西園寺さんだ!)
「ヴィクトリー!」
私はピースサインを頭上高くに掲げて、変態怪力清楚西園寺さんに敬意を示す。
「ヴィクトリー!」
返礼のように西園寺さんも私と同じようにピースサインを頭上に掲げて、私と西園寺さんはにっこりと笑った。
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城の中には城の中で暮らす兵士や使用人が祈るための小さな礼拝所があり、そこに老齢の巫女とその世話役である奴隷の少女の二人がいた。
「その子もアンタと同じ使徒様かい、サーキー」
サーキーこと西園寺早妃さんが頷く。
「置いて行かれたんですか?」
サーキーの質問から推測するに、この礼拝所にはもっと多くの巫女や世話役の奴隷がいたのだろう。
「置いていくように頼んだんだよ。こんな年寄りに長旅はきついし、置いてくれる神殿も無いだろうからね」
世知辛い話だ。
「おいで」
椅子から立ち上がった老齢の巫女の後をついていく。
西園寺さんと世話役の少女はその場に残っている。
老女が開けたドアの先は、社会科見学で見た警察署の取調室みたいに小さな部屋で、向かい合わせに二脚の椅子が置かれていた。
老齢の巫女に指差された椅子に座り、その対面の椅子に老齢の巫女が座る。
首に巻いていたスカーフで口元を覆い、ぼそぼそと何かを呟いて私を見た。
「あー、あんたとんでもない神様に加護を貰っちまったね」
老齢の巫女が言うには、私に加護を与えたのは献身の神で奴隷が信仰している神様らしい。
「その加護の能力は自己犠牲」
自分の命を対価に一つだけ願いが叶えられるらしい。
「ほとんどの奴隷は家族が奴隷の身分から解放されることを願うが……」
私は奴隷ではないし、自分の命を対価に叶えたい願いも無い。
老齢の巫女は私の加護や能力について誰にも言わない事を誓って部屋を出て行った。




