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自爆から始まる異世界転生  作者: 江戸エド


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2/16

 西園寺さんに羽交い絞めにされた田中さんの体が電池の切れたロボットのようにガクリと西園寺さんの腕に垂れ下がった。

 それが(みょう)に滑稽でつい口から笑い声が漏れてしまった。

 それが急に田中さんが気を失ったことに動転していた西園寺さんの耳に入ったらしく、てめー何笑ってんだと言うようなゾッとする目で睨まれて、俺はその視線から逃れるように振り向いていた顔を前に向けた。


 俺達を取り囲む剣や槍といった武器を持った兵士らしき屈強な男達が好き勝手に罵声や怒声を上げているので、もう誰が何を言っているのか聞き取れないが、その目線が誰に向いているのかは分かる。

 ――かかってこいやー!

 あの、一点の曇りもない怒鳴り声に俺の心がどれだけ(はげ)まされ(ふる)い立ったか。

 膝が折れないように立っているのがやっとだった俺の体にどれだけの力が沸き立ったか。

 さっきまでのションベンを漏らしてしまう程の恐怖は何だったのか。

 今は首を傾げてしまう程に何も怖くない。

 それどころか、目の前にいるガタガタとうるせえ野郎共を一人残らずぶちのめしたくて仕方ない気分だ。


 「てめーら、ガタガタうるせえんだよ!」

 田中さんの闘魂精神が乗り移ってしまったのか、あの清楚な顔と声をしている西園寺さんが悪役女子レスラーのようなドスの効いた声で怒鳴り声を上げた。


 「おい、てめーこの野郎!田中さんが来いっつってんのに何突っ立てやがんだ!早く来いよ、この腰抜け野郎!どうした?落とした玉が見つからないのか?だったらさっさとママを呼んで探して貰え!ハッハッハ!」

 あの清楚な西園寺さんが……

 「てめーらは玉無しの腰抜け野郎の(ケツ)の穴を舐めるのが大好きな淫乱カマ野郎共だ!」

 あの……西園寺さんが……

 「ウィイイー!この拳をてめーらのその締まりのない尻穴におっ立ててやる!いくぞお前らああー!」

 

 *****


 私が意識を取り戻したのは陽が落ちた夜で、ベッドの上にある窓から月が見えた。

 「ここ、どこ?」

 私は学校にいて、帰りのホームルームが始まるのを待っていて、先生遅いなって時計を見たら秒針が止まっていて……そこからの記憶が無い。いや一度西園寺さんに起こされて……起こされて……どうしたんだろう。思い出せない。またすぐに気を失ったんだろうか?

 天井を見上げる。知らない天井だ。

 左右を見ると、私と同じ棺桶みたいな木箱に藁を詰めてシーツを掛けたベッドに横たわっているクラスメイトの女子たちの姿が見えた。

 人数を数えると、間違っていなければ居なくなっている人はいないみたいだった。

 ふうーと安堵の息が出る。

 ほっとしたら眠気がきて私は眼を閉じてもう一度眠ることにした。


 「田中さん。田中さん。朝だよ」

 

 顔が清楚なら声も清楚な西園寺さんの声で目を覚ました私は、私を取り囲んで私を覗き込むクラスメイトの女子たちを見てビクリと震えた。

 (食うのか?!)

 脳裏に浮かんだのは、ゾンビの群れに落ちてしまった脇役がゾンビに囲まれて襲われる寸前の主観シーン。

 

「おはよう、田中さん」

私を取り囲むゾンビの群れを代表するように西園寺さんが言った。

「あ、はい。おはよう、ございます」

一瞬、いや数秒の間を置いて私を取り囲むクラスの女子たちが次々に「おはよう」と私に行った。

 「あ、はい。おはようございます。おはようございます。おはようござい――」

 私に「おはよう」と言ったクラスの女子たちは満足げな顔で私から離れていく。

 (え……なに?)

 今朝(けさ)のラッキーアイテムは”根暗ぼっちのおはよう”なのか?

 「田中さん、喉乾いてない?」

 西園寺さんの手に握られていた真鍮製のコップが私に差し出された。

 「あ、ありがとうございます」

 上体を起こして私はそれを受け取って一口飲んだ。ミントの香りと口の中がすっきりとする清涼感がした。 

 「おいしいです」

 こんな洒落(しゃれ)たものを飲んだのは生まれて初めてだぜ。

 さすがは顔が清楚なら声も清楚な女、西園寺。

 普段からこんな洒落たものを飲んでいるのか。そりゃモテて当たり前だ。

 きっと息も清楚に違いない。


 「パンがあるけど食べる?」

 ナンみたいな薄くて平たいバターの匂いがするパンを3、4枚乗せた土器のお皿を持った西園寺さんが私の太ももの上にパンの乗ったお皿を置いた。

 「ありがとうございます。頂きます」

 西園寺さんのにっこり笑顔が(まぶ)しい。これが後光という奴だろうか?

 今度から仏の西園寺と呼ぼう。心の中で。

 「おいしい」

 冷めてるけどバターの味と塩気がちょうどよく、あと三枚は余裕でいける。

 「ぶどう食べる?」

 「あ、はい」

 左手には真鍮製のコップ。右手にはナンみたいなパン。

 「はい、あーん」

 「あ、あーん」

 私の口にぶどうを運んだ西園寺さんの指が私の下唇を撫でていく。

 そして、その私の下唇に触れたであろう指を西園寺さんがぺろりと舐めた。

 これにはさすがの私も引いた。

 こら、西園寺。バッチイでしょうが。今すぐペッしなさい。

 「うふふふ」

 西園寺さんの微笑みに寒気を感じた。

 「はい」

 はい?

 「出していいよ」

 私の口の前に出された西園寺さんの手に何を出せというのか。まさか私の口の中にあるぶどうの皮と種か?

 私は生まれて初めてぶどうの皮と種を飲み干した。  

 「大丈夫です。私、全部、食べるので」

 なんかぶどうの皮が喉に張り付いている感じがする。

 「はい、あーん」

 「あ、あーん」

 まずいぞ。洒落(しゃれ)たミント水で喉に張り付いたぶどうの皮を流そうとしたら、またぶどうを口の中に入れられてしまった。

 そして左手に持っていた真鍮製のコップをさり気なく取り上げられた。

 (ふふふ。策士策に溺れるとはこの事だな、孔明よ)

 私はコップを取られて空いた左手にぶどうの皮と種を吐き出した。

 それを西園寺さんが手に取って自分の口の中に入れた。

 さっきは(まぶ)しかった西園寺さんのにっこり笑顔が、今は罠にかかった獲物を嘲笑う魔女の(おぞ)ましい笑みに見えた。

 西園寺、お前……変態清楚ビッチだったのか……!

 「うふふふ」

 嗚呼、これだから女は恐ろしいんだ。陰キャ仲間だと思ったら、実はその筋では有名な陰キャビッチだったりとか。女は表の顔が本物とは限らないのが怖い。清楚ぶってる女は特に。

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