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自爆から始まる異世界転生  作者: 江戸エド


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 私が逗留(とうりゅう)している山のふもとにある村は、人通りの多かった昔は近くの都市が支配下に置いていたが、人通りが減って損益ばかりが出るようになると都市はこの村を支配する事を止めた。そしてその後は村長とその一族がこの村を支配するようになった。


 「何やってんだ?」

 ただの町娘として暮らしていたゾーイさんの体は固く、柔軟性に欠ける。

 だから毎日朝昼夜とストレッチをしている。

 「鍛錬です」

 私がストレッチをしながら質問に答えると、質問した二十代前半くらいの男がフッと鼻を鳴らして笑った。

 「何の鍛錬だ?憐れな乞食を演じる鍛錬か?」

 人目につかない宿の裏で朝のストレッチをしていた私に近寄って来た男から酒の匂いがした。

 

 「そういうあなたはダメ人間になるための鍛錬ですか?」

 「何だと、この流れ者が!俺を誰だと思ってる。俺はこの村の組頭の一人だぞ!」


 ゾーイさんの記憶によれば、組頭というのは、村人たちから選ばれた村の運営役で、村の揉め事を裁定したり、誰が何の労役をするのかを決めたりするらしい。


 「朝から酒を飲んでいる組頭なんて見たことも聞いたこともない」

 組頭を知ったのも見たのも今日が初めてだからね。


 「俺が一言いえば、今すぐてめーをこの村から追い出すことも出来るんだぞ?」

 股間を蹴り上げ、前のめりになった首にのど輪を食らわして、地面に引き摺り倒した組頭の頭を膝で踏みつけて言う。


 「そんな事をしたらテメーを一番に殺してやるからな」

 腰のベルトに装着していた短剣を抜いてその切っ先がよーく見えるように組頭の目の前に突きつける。


 「やっぱり今殺すか。後で仕返しされると面倒だもんな」

 脅しではない。事実、後で村人総出で仕返しに来られたら、私がどう足掻いても勝ち目はないのだから。


 しかしここでこいつを殺しても同じ事になる可能性は十分になる。

 じゃあ最初からこんなことするなよと思ったそこのあなた。

 同感です。

 出来ることなら、私もこんな事をした自分を砂利の上に正座させて、その膝の上にまた板みたいな石を二段ぐらい乗せて説教したいくらいです。


 「短気はいかんぞ。お若いの」

 宿の人に頼まれたのだろう。

 10歳くらいの少年を連れて旅をしている初老の男性が宿の裏口から出て来て言った。


 「機嫌を損ねたからこんな事をしたのではありません」

 嘘だ。ついカッとなってやってしまった。

 「彼が私を侮辱したので、私は自分の名誉を守るためにこうするしかなかったのです」

 初老の男性は私の言い訳を楽し気な笑みを浮かべて聞いて言った。

 「そうか。それならば仕方ないな。呼び止めたりして申し訳ない」

 「いえ、事情を知らなかったのですから、謝罪は不要です」

 「うむ、そうか。しかし私も止めてくれと頼まれて引き受けた身だ。何もせずに引き下がることは出来ん」

 「左様でございますか。では、遅ればせながら名乗らせていただきます。私は、名をスミスと申します。故あって生まれ育ちは言えませんが、彫金を生業にしている、しがない流れ者で御座います。以後お見知りおきを」

 「これはご丁寧なご挨拶痛み入る。私は、名をラウリと申す。生まれも育ちも家畜小屋の、生まれながらの流れ者で御座います。以後お見知りおきを」

 お互いに小さく黙礼する。

 

 「それで、ラウリ殿はどうするおつもりですか?」

 決闘は止めてくれよ。こんなバカのために命を懸けるなんて、このバカ以上に馬鹿げている。

 

 「まずはその男を私に預けて欲しい。むろん、スミス殿に仕返しをする様な事はさせない」

 私は膝で押さえつけていた朝から酔っている組頭の額に、ダナヘトラ様のシンボルマークである三日月を突き付けていた短剣で刻んでから組頭を解放した。


 「スミス殿はいつまでここにおられる?」

 「予定では三日目の朝に立つつもりでした」

 「ではそのようになされるといい。私はその間、彼の家で歓待を受けることにする。私は彼の命の恩人だからね」

 それは嬉しそうな顔でラウリさんは言った。

 さすがは生まれながらの流れ者。労せずにうまい汁を吸う術を心得ている。

 私はラウリさんに一礼すると、村に一つしかない商店に向かう事にした。

 

 「手袋ならまだ出来ていないよ」

 店に入って来た私に店主のお婆さんが言った。

 「教えて頂きたいことがあって参りました」

 私はカウンターの上にじゃらりと十枚の銅貨を置いた。


 お婆さんはそれをちらりと見て言った。

 「私が教えられる事なんて大したことじゃないよ」

 「日々の暮らしは大したことなくても、その長年の積み重ねから得られる知見は、高名な学者様の御高説よりも拝聴する価値があります」

 私は小さい頃から人の話を聞くのが好きだった。特に人生や教訓について話す話が。

でも今回知りたいのは隊商ギルドについてだ。


 「アンタには向かないから止めときな」

 お婆さんの第一声がこれである。お婆さんに私の何が分かるというのか。

 「その納得がいかないと言っている顔がもう向いていないのさ」

 お婆さん曰く、「隊商に加入するには、軍団のような規律と奴隷のような絶対服従が必要だよ」らしい。


 「素っ裸になれと言われたら、人混みの中でも素っ裸にならなきゃならないし、夜の相手をしろと言われたら誰が相手だろうと嫌な顔一つせず相手しなきゃいけない。それがあんたに出来るのかい?」

 

 むろん、無理だ。もう絶対に無理だ。そんな事言われたら死ぬまで抵抗する自信がある。

 「そりゃ一人旅は大変だし危ないけど、誰かにあれこれと指図されることは無いし、やりたくもない事を強要されることもないんだよ」

 その代わり、誰も手を貸してくれないし、守ってもくれない。


 「金があるのなら奴隷を買うのも一つの手だよ」

 確かに。

 「でもそれってお高いんでしょう?」

 「そりゃ高いさ。でも一人でもいると、ずいぶんと旅が楽になるよ」

 それはそうだろう。一人でやっていた事を二人でやれるようになるのだから。


 「何処で買えるんですか?」

 ゾーイさんが居た町に奴隷はいたけど、ゾーイさんが町で奴隷が売られているのを見た事は一度もない。

 

 「一般的な方法で言えば、奴隷を所有している人に頼んで売って貰う事だね」

 農園、鉱山、大きなお屋敷。たくさんの奴隷を所有していると、必要以上に奴隷が増えてしまって困っている所は少なくないらしい。


 「そういった所から買った男や女を人手が欲しい農村や売春宿に運んで売るのが人買いと呼ばれている奴らだね」


 俗にいう奴隷商は大量に仕入れて大量に売ることを商売にしている人達の事を指し、貴族や富豪と言った人たち以外の一般人が奴隷商と関わることは無いらしい。

 

 「ちなみに、いくらぐらいで買えるんですか?」

 「そりゃアンタがどんな人間を欲しいかによるね」

 ごもっとも。

 「理想を言えば、若くて健康で従順で料理が出来る女性が良いですね」

 「若くて健康な女と言うだけでも値が張るのに、従順で料理が出来るとなると、まずアンタみたいな流れ者には絶対に売ってくれないだろうね。奴隷と言っても情が無いわけじゃないんだ。不幸になると分かっている相手にそんな上等を奴隷を売ったりはしないよ。もし所有者が許しても周りが許さないよ」

 「じゃあもし私が奴隷を買うとしたら、どんな奴隷なら売って貰えるんですか?」

 「老いぼれの障害持ちか持病持ちの奴隷か、反抗的で攻撃的な奴隷か、誰かが常に側に居て見ていないと荷物を運ぶことすら満足に出来ない頭の悪い奴隷のいずれかだね」

 「それだと奴隷を買う意味が無いんですけど」

 私は楽をしたいのであって苦労をしたいのではない。

 「アンタはまだ自分の立場が分かってないんだね」

 自分の立場?

 「アンタはもう流れ者なんだよ。そんなことは分かっているって顔をしているけど、分かってないよ。分かってたら、奴隷を売って貰えるなんて思わないからね」


 ホームレスに子猫を譲ってくれと言われて何も考えずに譲ろうと思う人がいないように、何処で野垂れ死ぬか分からない流れ者に、何の咎も無い奴隷を売る人間はいない。


 「アンタはもう真っ当な人間じゃないんだ。世間からはみ出たゴミクズなんだよ」


 

 

 



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