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自爆から始まる異世界転生  作者: 江戸エド


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 山道は景観がいいから歩いていて()きない。

 これで人通りがあれば安心できるのだが、荷馬車が通るには適していないくらい荒れている道の状況からして、この道を使う人間はずいぶん前から少ないのだろう。

 

 山越えは太陽が真上を過ぎたくらいに終わり、眼下にふもとの村が見えてきた。

 「よせ。止めろ。止めろ!」

 私は二足歩行でトコトコと近づいてくるボスヤギの頭突きに備えて手に持っていた短槍を投げ捨てると、両手を前に出していつでも角を掴めるように構えた。

 「この、どうだ!舐めるなよ!人間様を!おい、よせよ。勝負はついただろ?くそ。諦めの悪い野郎だ」


 ボスヤギの頭突きを受けること数回。私とボスヤギの戦いを少し離れた所で笑いながら見ていたヤギ飼いの殺害を私が決意した頃、ようやくボスヤギの頭突きが止んだ。


 「はあ、はあ、次に挑んできたらお前のその自慢の角をへし折ってやるからな」

 私は投げ捨てた短槍と石を拾うと、私とボスヤギの戦いを見て笑っていたヤギ飼いに石を投げつけて山のふもとの村の中に入った。


 「日が暮れたら鍵を掛けるから、出かけるならその前に帰って来てくれよ」

 私は頷くと、借りた部屋に入って内鍵を掛けて背負っていた荷物をドア前の床に置くと、ただの木の板のベッドに寝転んだ。


 「嗚呼。疲れた~」

 宿は三日分とった。

 私もゾーイさんの体も初めての旅で疲れてる。あと、吹き矢を作るか買うかして手に入れたい。


 「おえ」

 久しぶりに脱いだ靴の臭いは、排せつ物に匹敵する汚臭がした。

 だから投げ込まれた手りゅう弾を投げ返すみたいに酷い臭いを発する靴を明り取り用の窓から投げて、ゾーイさんが町で履いていたサンダルを履いて窓から投げた悪臭がする靴を拾って、風通しのいい日の当たる場所に置いた。

 

 「炭が良いとは聞くけど、まぁ、何もしないよりはマシか」

 宿の人にお金を払って炭を分けて貰い、それを布で包んで靴の中に入れる。


 靴の匂いが取れるまで見張っているのは時間の無駄だから、左右の靴を靴ひもでつないで肩に掛けると、宿の人から聞いた村に唯一ある商店に向かう。


 看板は無い。店の中には店番らしきお婆さんが縫い物をしているカウンターがあるだけで、商品らしき物は一つも置かれていない。


 「何を買いに来たんだい?」

 「吹き矢と吹き矢に使う矢が欲しいんですけど」

 私がそういうと、お婆さんは布で仕切っていて見えない廊下の奥に向かって大きな声で「ヒルマ!」と声をかけた。


 「こんにちは」

 「こんにちは」

 店とその奥を仕切っている布から顔を出したのは8歳くらいの女の子で、お婆さんはその子の耳元に何かを言って、女の子はまた布の奥に消えた。


 「孫が探して持ってくるからそこに座って待っていなさい」

 私は言われた通りに、店の壁沿いに置かれている椅子の一つに座った。

 「値段はいくらぐらいになりますか?」

 「それも孫が調べるからそこで待っていなさい」

 盗賊が持っていたお金があるから払えないことは無いと思うけど、だいたいの値段ぐらいは知っておきたかった。


 「どっちから来たの?」

 「山を越えてきました」

 「何処へ行くの?」

 「何処へ……獣人は御存知ですか?」

 「ああ。若い頃に見た事があるよ。船のオールを漕ぐ奴隷で、ドブネズミみたいな姿をしていたね」

 「その獣人と人間が戦争をしているという話を聞いたことはありますか?」

 「あるよ。私が生まれるずっと昔から人間と獣人は戦っているからね」

 「最近だと何処で戦いが起きたか知っていますか?」

 「あんた、征服戦争に参加するつもりかい?」

 「征服戦争……?」

 博識なお婆さんの説明によると、最高神というたくさんの神様たちを従える王様みたいな神様が信徒たちに命じて始めた戦争で、その戦いで活躍すると信仰している神様から加護と能力(スキル)が貰えるらしい。

 「最高神に従っている神様に限られるけどね」

 「参加したがる人は多そうですね」

 貰える能力(スキル)の中には使い勝手が悪いものもあるだろうけど、あって無駄になることはないだろうし。

 

 「加護や能力(スキル)はアンタが思っているほど簡単に貰えるものじゃないよ」

 部隊が全滅するような絶体絶命の状況をひっくり返す様な英雄的な戦果を出すくらいの活躍が必要らしい。

 「魚を釣り上げるための餌ですか」

 好き好んで戦場にいくバカは人類の一割もいない。ほとんどが嫌々や仕方なくだ。


 「それは何処でやっているんですか?」

 お婆さんの目が咎めるように私を睨んだ。

 「知らずに近づいて巻き込まれたくないだけです」

 「こんな田舎で暮らしている老いぼれが知っている訳ないだろ。知りたいなら最高神様の神殿に行ってお聞き」

  「はい」ごもっともな正論だ。


 それから少しすると店が臭くなると言われて、肩から下げていた靴を店のドアのすぐ横に置いて店に戻ると、商品の吹き矢を抱えた8歳くらいの少女が、店と奥を仕切る布から顔を出したところだった。


 「長いのと、短いのです」

 私の肩の高さまである長い吹き矢は狩猟用で、飛翔速度と射程と命中精度は高いが、重くて取り回しが悪い。


 もう一つの短いのは私の胴体ほどの長さで、携行性は悪くない。射程も野犬を追い払うには十分な距離があると思われる。表面には漆が塗ってあるから防水性もあるだろう。


 「これを買いたいんですけど、おいくらですか?」

 8歳くらいの少女に短い方の吹き矢を指差して言うと、少女は嬉しそうに笑ってカウンター下から本のようなものを出してペラペラとめくりだした。


 お婆さんの顔をちらりと見ると、お婆さんの目が椅子に座って待っていろと言っていたので、私は壁沿いに置かれた椅子の一つに座って、少女が吹き矢の値段を見つけ出すのを待った。

 

 「銅貨5百枚。棒銅貨だと5本。銀貨だと1枚です」

 私は中指ぐらいの太さと長さがある棒銅貨5本をカウンターに置いた。

 少女はそれをカウンターに置いてある天秤ばかりで計り、正規の重さがあることを確認してにっこりと私に微笑んだ。


 「次はその吹き矢に合う矢を持ってきますね」

 「吹き矢を入れる皮袋もだよ」

 店の奥に駆け出した少女の背にお婆さんが言った。


 「男の振りをするなら、手袋は必須だよ」

 お婆さんは吹き矢を手に取った私の手を見て言った。


 「体型も声もうまく隠してるけど、アンタの手を見てすぐに分かったよ。その手は男の手じゃないって」

 その事を気にしていなかったわけではない。

 でも普段使いできるくらい手にフィットする手袋は職人の一品物で何処でも手に入るものでは無い。


 「金貨一枚。払えるならあんたの手にぴったりの皮の手袋を用意してやるよ」

 さすがに金貨一枚分のお金は持っていない。でもその代わりになる物を持っている。


 「質のいい直剣の片手剣を持っています」

 粗悪な剣でも金貨一枚するらしいのだから、盗賊共が持っていたピカピカに磨かれた剣はその倍以上の価値があるだろう。


 「私は四日目の朝にここを発つ予定ですが、手袋はそれまでに用意出来ますか?」

 「出来るよ」

 「では剣を取りに一度宿に戻ります」


 店を出た私は、ドア横に置いていた靴を肩に掛けて宿に向かい、自分の陰に収納していた鞘に入った片手剣を持って再びお店を訪ねた。

 「いらっしゃい」

 カウンターの上に置かれた吹き矢用の矢と吹き矢を入れる皮袋を前にした少女が嬉しそうに微笑んで言った。


 「金貨一枚分の価値はあると思う」

 差し出された少女の両手の上に鞘に入った片手剣を置く。

 「試しに一本飛ばしてみたいんだけど」

 「一本銅貨4枚です」

 素晴らしい商売人だ。

 私は代金を払って選んだ一本の吹き矢用の矢を持って外に出ると、近くの木を的にして何度も飛ばす。

 (悪くない)

 想像以上ではないが、射程も命中精度も必要十分にあった。

 

 「これでどうですか?」

 試射をして店に戻ると、カウンターの上に置かれていた吹き矢用の矢と吹き矢を入れる皮袋の横に、私が吹き矢代として支払った棒銅貨5本と試射に使った矢一本分の銅貨四枚が置かれていた。

 「いいですよ」

 私は差し出された少女の手を握って握手した。

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