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自爆から始まる異世界転生  作者: 江戸エド


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13

 山の谷間に流れる水は冷たく流れは早い。

 季節は初夏。歩くと汗ばむ。

 だから二日も同じ服を着ていると臭いが気になって仕方ない。


 そろそろ服を着替えてついでに水浴びでもしようかと思った私は、川に手をつけてその瞬間悟った。これは無理だと。


 でもそこで諦める私ではない。月の女神ダナヘトラ様の神界にある常闇の神殿で鍛えられる前の私ならすぐに諦めていたかもしれないが、今の私はこんな時の解決法をよーく知っているのだ。


 しかしそれには薪がいる。

 (さいわ)い、川原にはちらほらと流木が落ちている。

 だから、分かるな?そうだ。ただひたすらに斧を振り上げ叩き割るのだ。この身に宿る煩悩を忘れ去るまで。

 

 頭から出た汗が蛇口から垂れる水滴のように顎先からポタポタと落ちる。

 服は汗でぐっしょりと濡れていて不快な臭いを発している。

 焚火の側で冷やしていた沸騰させた水が入った鍋の水をごくごくと飲み、指に付けた塩をぺろりと舐める。


 体が(かゆ)い。ぐっしょりと濡れた不快な臭いを発する服でごしごしと痒い所の皮膚を擦る。

 もうひと汗かいたらこの不快な服を脱いで水浴びをしよう。

 そう決めて私はまた流木を斧で叩き割ることに専念した。

 

 「ひいい」

 素っ裸で川に飛び込んだら、心臓が止まりそうなくらい冷たくて、一瞬で川から飛び出した。

 薪割りをした直後だから体の芯は暖かいが、外側はキンキンに冷えて鳥肌が立っている。


 それでもまだ頭や髪の汚れ、その他にも綺麗にしたい清潔にしておきたい所はある。

 だからもう二度と入りたくなくても、もう一度入る必要がある。

 「ひいいい」


 新しい服に着替えて、焚火で体を温める。

 「やっぱり面倒臭がらずにサウナを作ればよかった」

 盗賊共から奪った雨具を兼ねた外套をテントのように使えば、私一人が入れる石焼きサウナを作ることが出来たのに。

 失敗の原因は、体を動かしたことでイケイケに上がったテンションのせいだろう。


 ――ええやんええやん。これもうサウナ入っているようなもんやん。


 それで川に飛び込んで目が覚めたというか我に返ったというか、気づいてしまったんだ。自分の愚かさに。


 「寒い」

 鍋で沸かした白湯が身に染みる。

 季節は初夏。日暮れに吹く山の風は冷たい。


 日が暮れると、川沿いの草木に止まったホタルが淡い光を放つ。

 よくよく考えると生き物が光を放つというのはめちゃくちゃすごいことである。

 そりゃ昔の人がその光にじっと魅入ってしまうのも無理はない。

 かくいう私も魅入られている一人だ。

 

 ——ダナヘトラ様は君の仲間達を元の世界に返すことをお約束になられた。

 でもそれは無料(ただ)ではない。

 ——一人につき、二十人。奴隷は受け付けない。


 私を除いたクラスメイトは31名。

 ということは、全員を送り返すには620人の生贄が必要になる。


 世界のどんな極悪人でも、それだけの人数をたった一人でこの世から消した人間は古今東西一人もいないに違いない。


 でもやるしかない。

 クラスメイト達がいるところまで行くのにどれだけの日数がかかるのか分からないけど、みんな帰れるならすぐに帰りたいと思うだろうし。

 チンタラはやっていたら何年かかるか分からないし、もっと積極的にやる必要がある。


 でもそのためにはもっと強力な能力(スキル)を手にする必要がある。

 能力(スキル)を持っているのは私だけではない。この世界の人達も持っている。

 能力(スキル)を持っている人は、数十万人に一人くらいの確率らしいけど、ワンマンアーミーみたいな強力な能力(スキル)を持った人間が数千万人に一人くらいの確率でいるらしい。

 善人悪人問わず。

 だからいざという時のために強力な能力(スキル)を一つくらいは使えるようになっておきたい。けどそのためには沢山の生贄が必要になるんだろうなぁ。


 ところで、私が何でこんな人里離れた所に居るか知っているだろうか?

 答えは簡単。山のふもとにある宿が人でいっぱいだったからだ。私の目には空いているように見えたけど、今は出かけていていないらしい。

 嘘か本当かは分からないけど、無いと言われたら諦めるしかない。


 「アンタどこから来たの?」

 山越えをする旅人を相手に食事や旅の携行食を売っている食堂の給仕係のおばさんが注文した料理とパンとチーズをテーブルに置いて言った。

 「街道の東から来ました」

 代金とチップをテーブルに置くと、5切れのパンの一切れ以外のパンと平たくて丸いチーズを清潔なガーゼで包んで背負っていた大きな皮のバッグに入れる。

 

 頼んだ料理は鶏肉のミルクシチューとゆで卵が三つ。

 代金は銅貨20枚。ゾーイさんの記憶によれば、ゆで卵一つが銅貨一枚くらいらしい。でもそれは町に税を納めている人の値段で、町の外から来た人はその倍くらいの値段が妥当らしい。


 だから代金の銅貨20枚は住民からすればぼったくりだが、旅人には妥当な値段と言えるだろう。


 パンの代金が予想よりも高かったが、それは麦を育てるのに向かない山のふもとだからだろう。逆にチーズは少し安かった。放牧されているヤギをよく見かけたから、チーズが安い理由は地元で作っているからだろう。

 

 「あの、宿が一杯だと言われたんですけど」

 他に泊まれるところが無いか教えてもらえないかなあと給仕係のおばさんに聞いたら「あー、あの傭兵共か」と言った。

 それを聞いた私の脳裏に、私の荷物を奪った盗賊共の事が思い浮かんだ。


 「残念だけど、他に泊まれるところはないね。うちは子連れのおじいさんを泊めていて、空いている部屋は無いし」

 「そう、ですか……」

 村に住んでいる食堂のおばさんが無いというのだから、他に泊まれるところは本当にないのだろう。


 「そして今食べているのが食堂で買ったゆで卵です」

 ホタルは綺麗だが、夜の川に吹く風は水気を含んでいて身に染みる。

 晩御飯を食べて歯を磨いたら火の始末をして近くの雑木林に張ったハンモックに外套を敷いてその上に毛布にくるまった私が寝転ぶ。


 「我が眠りを妨げるものに死を。〈シャドウ・エクスターミネーション〉」

 私を包む陰に触れた蚊やハエなどの害虫を殺してくれる便利な魔法だが、その死骸が消える訳ではないので、顔や服に虫の死骸が着くのが嫌なら、寝る時は体に何かを掛けて寝る必要がある。


 陽の光で目が覚めると、空腹と尿意を覚えた。でも毛布の外はまだ陽が上ったばかりで寒い。川の側は更に寒い。

 「あ~、面倒くせえ」

 人間の体は何でこんなに燃費が悪くてやたらとおしっこをしたがるのか。

 

 たくさんの足音とメエーメエーとうるさい鳴き声がしてそちらの方に視線を向けると、勤勉なヤギ飼いが放牧地にヤギを連れて行くのが見えた。

 「そりゃ旅の人間が怠惰に見えても仕方ない」

 陽が上っているのにまだ寝転んでいるのだから。

 彼等が私のような流れ者を、ろくでなしと(さげす)むのも無理はない。

 

 「よいしょ」とハンモックから下りた私は、人目につかない所でスッキリしてから火を起こして湯を沸かした。

 朝食は一切れのパンとチーズ。盗賊が持っていた干しブドウ。

 食後の白湯を飲んでいると、昨日の昼前に見た子連れの初老の男性がこちらに近寄ってきて、少し離れた所から声をかけてきた。

 「一杯頂けないだろうか」

 「どうぞ」

 私は焚火の側から離れて出発の荷造りを始めた。

 「ありがとう。お先に失礼するよ」

 「お気をつけて」

 焚火の側で白湯を飲んだ十歳くらいの男の子と初老の男性が立ち去るのを私は見送った。

 

 

 


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