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私に生きる価値はあるけど、私にそれ以上の価値はない。自分を卑下しているわけでも卑屈になっている訳でもない。
アリがアリ以外の生き方が出来ないように、私には私以外の生き方が出来ないだけだ。だから、私の価値が変わる事はあっても私が変わることはない。正確に言えば、変わりたくても変われない。
根暗で口下手。葬式帰りのような陰鬱な顔。小学生のような起伏も色気も無い体。
好きなアイドルもバンドも歌手もいない。好きなアニメも漫画もゲームも無い。好きな髪形もファッションもアクセサリーも無い。
そんな面白げも可愛げもない私に生きている以外の価値が何処にあると言うのか。
誰がこんな奴を友達にしたいと思うのか。誰がこんな人間に心惹かれると言うのか。
何がボッチかわいいだ。可愛くないからボッチなんだよ。くそったれ!
とクラスの誰とも話さないし話そうともしない私が心の中でそんな悪態をついているなんてクラスメイトの誰も思うまい。ふふふ。
(遅いな先生)
帰りのホームルームの時間なのに……時計が止まってる?
黒板の上にある針時計が止まっている事に気づいた瞬間、私の意識が落ちた。
そして気付いたらファンタジー映画に出てくる、屋根が尖っている塔がいくつも見える城の中庭のような所に倒れていた。
「田中さんが起きた」
私の斜め右前の席の西園寺さんが私以外のみんなに知らせるように言った。
上体を起こして周りを見渡すと、武器と防具を身に着けた兵士たちが私達を取り囲んでいて、クラスの男子たちが女子たちを守る様に彼等の前に立ちはだかっていた。膝は震えて顔から血の気は引いているけど、それでも彼等は私達を守ろうと悲壮な顔で私達の前に立って、武器を持った男達と対峙していた。
「神は我々を見捨てたのか?!何だ、この軟弱な奴らは!」
取り囲む兵士達の奥にある壇上からこちらを見ている、王冠と錫杖らしきものを身に着けた豪奢な服の髭もじゃの男が怒鳴り声を上げると、それに同意するように、私達を取り囲む兵士達の口から、私達を罵る言葉が聞き取れないくらい次々と吐かれた。
後ろ姿しか見えないから誰か分からないけど私の前に立つクラスの男子のズボンの股が濡れている事に気づいた。投げかけられる罵声に混じってその男子が声を殺して泣いている声も聞こえた。
でも彼の手はいつでも殴りかかれるように固く握られていて、絶対に後ろには行かせないと言う様に体が前のめりになっている。
頭がカッと熱くなった。今までに感じた事が無いくらいの怒りが私の体を震わせた。
(何が軟弱だ。武器を持った屈強な男達に囲まれても女たちを守るために拳を握り締めて立っている男たちの何処が軟弱だ!)
「かかってこいやー!」
私は立ち上がって、兵士達の後ろの壇上にいる王様のような恰好をした奴を指差して人生一大きな声を張り上げた。
「かかってこいよ、てめーこの野郎!ビビってんのか?!こいよ!私が相手になってやるから来いよ!立ってここまで来いよ、この腰抜け野郎!どうした?一人じゃ怖くてここまで来れないのか?だったら私がそっちに行ってやるよ!腰抜けの臆病者のてめーのためになあ!」
私は肩を思いっきりいからせて一歩二歩と歩いてクラスの男子たちが立っている外に出ようとしたら、後ろからすごい力で羽交い絞めにされた。
「ダメー!ダメよ田中さん!落ち着いて!落ち着いて田中さん!」
く、首が、締まる……!
私は意識を失った。




