第7話 刻一刻と
一歩ずつ、一歩ずつ。
人の心の闇を理解していながらも、それでもなお「怒り」というのは湧き上がってくるものだから。
一歩ずつ、一歩ずつ。
生きていい人間と生きてはならない人間がこの世に投資に存在している、この地球という惑星の歪さを理解してもなお「怒り」というのは湧き上がってくるものだから。
一歩ずつ、一歩ずつ。
「見つけた」
「なんだテメェ‥‥‥」
「私のことは構わないだろう。君の奥さんと息子さんが遺体になって発見されたよ。どう思うか?」
「知らねぇよあんなの。あんな馬鹿な豚女と猿みたいなガキなんてさぁ‥‥‥知らんのよ。なんだ、テメェ」
陸夫はその男を蹴り飛ばした。
男はもちろんやり返そうとするが、それも虚しく躱されて、腹にもう一撃喰らうと、勝てないと分かり逃げ出した。
一歩ずつ、一歩ずつ。
「人殺しで人の良さを知った時代のれんじゅうは違うな‥‥‥人の命の恋しさを‥‥‥息子を愛する母親の希少性を知らんので‥‥‥そうやって、そうやっていつまでも、殴ってばかりいて、害してばかりいて、そうして、子供がないているのも、わかんないで‥‥‥」
「何言ってんだテメェ!!」
男は逃げていた。
陸夫はゆっくり近づいていく。
男が何処までも遠くへ逃げようとすれば、陸夫は何処までも遠くへ追いかけて、心が病めば安らぐまで待つつもりで追い掛けて、そして転んだら立ち上がるまで待ち、そして近づけば背中を蹴り飛ばした。
男は陸夫が尋常でないことを察して、「来るな! 来るな!」と叫びながら逃げて隠れていたが、陸夫には効かなかった。
陸夫は脳の内側で男の隠れ場所を理解していた。
「あの親子が健やかに生きてくれさえすれば、われわれは満足したんだ。そうだと言うのに、貴様はそうやって、貴様はそうやって‥‥‥人を傷つけるのに依存をするから‥‥‥」
頭を蹴りつける。
男は悲鳴をあげて水溜まりに転げ落ちた。
その頭を踏みつけ、泣きわめく男の腹を蹴っ飛ばした。
「うう、ううう‥‥‥」
「泣いて‥‥‥喚くくらいなら‥‥‥最初から! 生まれてくるな!!」
「うううう!!」
男は痙攣しながら泣き喚いていた。
陸夫は胸ぐらを掴み上げて、近くにあった壁に叩きつけて、何度も顔面を殴りつける。
「殺してやる‥‥‥殺してやる! あの子は、哲次は‥‥‥!! 一昨日が、あの日が!! 十二歳の誕生日だったんだぞ!! 誕生日なのに、死んじまったんだぞ!! き、きさまのせいで‥‥‥!! 貴様みたいな、死に損ないの死産英雄のせいで!!」
「うう、うう、ゆるして、ゆるして」
「言う相手が違う!」
顔面を、殴り潰した。
「ハァー‥‥‥ハァー‥‥‥うう、うううう‥‥‥!! ううう!! うううううう!!」
泣きながら、その場をあとにした。
気にかけた通行人が「どうした」と声を掛ければ「放っておいてくれ」と突き飛ばして、走り出した。




