第2話 逃走開始
陸夫は何とかして屋敷から出て幸代から遠ざからなければならなかった。いまの幸代はなにをするかわからなかった。
もしかしたら殺されてしまうかもしれない。
それはとても恐ろしいことだった。
押し入れのなかで「これからどうする、どうやってにげる」「逃げたところで、どうやって生きていく」と考える。
「わふー」
幸代の声が聴こえてきた。
押し入れの戸がゆっくり、ゆっくり、じっくりと開いていく。
「うわあああ!!」
陸夫は反対の戸を勢いよく開けて飛び出した。
「お母さんだよ、陸夫。お母さんなんだよ」
「ひ、人殺しだよ! お、おっかぁなものかよ! おまえは、おまえみたいなのは! 人殺しなんだあ!」
叫びながら、陸夫は走り出した。
しかし、廊下にたまっていた血に足を滑らせてキュキューッと滑っていく。
「う、うわあああ!! 遊んでんじゃねぇんだぞ!!」
壁に激突し、陸夫は鼻血を出したが構わずにすぐに立ち上がり、玄関に向かっていった。
そのすぐ後ろで幸代も追ってきたらしく、キュキューッと滑り壁に激突していた。
「陸夫お! 陸夫! 一緒に暮らそうよ! お母さんと一緒に暮らそう! お金もあふんだよ、暮らせるお金も!」
「人殺しの金なんて‥‥‥汚い!!」
「薄汚い金貸しやくざの金で育ったでしょうがあ!!」
幸代は汚く唾を飛ばしながら犬が泳ぐように四肢をジタバタを掻き立てて廊下を獣のように走った。
「う、薄汚い金貸しやくざ‥‥‥!?」
陸夫は涙をこみ上げた。
「一文字組のみんなは‥‥‥一文字組は!! 警察に捕まんの怖くて、創業以来犯罪なんてできなくて、あんたにだって、返済能力が備わるまで、返済の催促をしたこと、なかったでしょう!?」
「やくざはやくざ!!」
「じゃああんたも人殺しは人殺し!!」
近くの派出所までは走っても二十分は掛かる。
幸代の脚力であればもっと容易くつくのだろうが、十二歳の脚力では二十分もかかってしまう。
『たしか自転車あったな‥‥‥倉庫‥‥‥』
倉庫まで走れるか?
幸代に捕まってしまう確率は?
そんな事を走りながら考えていた。玄関先に立てかけてあった傘を二本取り、武器にしつつ、幸代から逃げ出す。
「行くしかないのか‥‥‥!」




