第10話 家へ
仕事終わり、空が夜になる身支度をしている。
好一は事務所の前で煙草を一本吸い切ってから、歩き出し、駅に向かっていると、少年がドンとぶつかってきた。
その少年の様子が何かおかしいことを脳の内側で理解すると、好一は懐から拳銃を取り出して、頭上に向けて撃った。
「なんのつもりだ‥‥‥? 物部か?」
脳に弾丸を受けて堕ちたカラスには眼球がなく、かわりに硝子玉がはまっていたのを見て、この改造技術は紛れもなく物部陸夫か、あるいは巨頭村の物だと細目で分析。
「いや‥‥‥」
物部陸夫は二年前に殺されている。
怪異として蘇っていたとしても、このような事をするような男には思えない、という推理があった。
物部陸夫は父を殺した男で、かつて刑事をしていた頃に彼の経歴や動向を探ったことがある。
彼は行く先々で倫理的な問題を起こしていたか子供を相手にする時は決して絶対に物部陸夫は残虐性など匂わせもせず、「優しい大人」を演じてみせた。
「子どもに対して害をなすような男でない‥‥‥なら、巨頭村のれんじゅうか? ‥‥‥おい、君大丈夫か?」
少年の肩に触れてみれば、弱々しい。
「大丈夫じゃなさそうだな‥‥‥」
タクシーを呼んで、病院に連れて行って疲労がたたっているだけだとわさると、それから警察署にも同行させた。
かつての同僚たちが少年のことを調べてみると、どうやら最近親を亡くしたばかりの可哀想な少年であることが判明した。
「交通事故だよ、橋でさ‥‥‥居眠りの運転手に車で欄干に押しつけられて上半身と下半身がわかれちまったのさ」
元同僚・今村弘からその遺体の状況を示した写真を見せられ、好一は「ひどいな」と言った。
「運転手も洗ったが‥‥‥巨頭村との関連はないつもりだぜ」
「なら、これは単なる不幸の連続か?」
それにしてはあのカラスが不穏である。
「少年! 君、伊東三郎なんだってな。腹減ってるのか? 何処かでなんか食うかい?」
少年は光のない目で好一を見ると、「もう、伊東ですらない」という事をボソボソと繰り返した。
「伊東じゃない?」
「お父ちゃんも、お母ちゃんも死んじまったんだぞ‥‥‥お、俺はもう‥‥‥俺は‥‥‥これから、ひとりで生きていくんだ」
「そんなの無理さ。俺にも無理だもの。‥‥‥今村。この子連れて帰ってもいいか? 放っておいても心配になるだけだ」
「お前にかぎって、子どもに手を出すなんてないのわかるから、俺は構わんよ。ただいきなり子どもを連れて帰って良い家か?」
「無茶を通すさ。彼女らも子どもを相手にして嫌な顔をするようなものではない。そう見積もる」
好一と三郎はそのまま帰宅した。
「三田」という表札のある家が見えると、玄関の前に髪の長い女性が立っているのが見えた。
「また、居残りでやらなくてもいいのやってんのかと思った」
女性は少しだけ低い地声で、低いテンションの声で、そう言いながら好一のわきの三郎を見た。
「この子は?」
「さっき其処で会ったんだ。帰るの遅れたのは病院と警察に行ってたからかな。電話一つ入れればよかったな」
「そこまであなた賢くない」
女性・三田冬美は眼鏡の奥で微笑んだ。
目尻のほくろに見惚れる間もなく、その女性はしゃがんで三郎に視線を合わせる。
「お名前、言えるかな」
「‥‥‥三郎。ただの三郎」
「滝三郎だ。明日にでも俺の息子になるさ」
「そうなの?」
三郎は咄嗟に好一の顔を見上げた。
冗談を言ってるんじゃいけなかった。
「お、俺に拘るの駄目だよ‥‥‥俺、人を不幸に‥‥‥」
冬美はそれを遮るように両手で頬を挟んだ。
「んん‥‥‥目元とか、少し似てる。本当に血縁なのではなくて?」
「都合良いじゃない。冬美、どうかな」
「どうかな、って?」
「え、ほら、そりゃあ‥‥‥このコをさ」
「あなたの息子なら、私の息子にもなると思うから、構わないですよ。なにがいけないの。確認するまでもなくって」
好一の心底ホッとしたような顔を見て。




