炎の生徒会選挙編5
満席の講堂。
中央の円卓に、三人の候補が向かい合って座っている。
現生徒会長・鷹宮レイ。
ダークネス党候補・黒皇ヴァルハルト。
第三候補・土御門ねん。
司会の合図と同時に、火花が散った。
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それは黒皇ヴァルハルトの主張から始まった。
「学園の問題は明白だ」
黒皇が立ち上がり、腕を広げる。
「すべて社会が悪い。
規律を失った自由が、生徒を堕落させている」
一部の生徒が頷く。
「だからこそ、余が“正しき固さ”を与える」
黒皇はレイを睨む。
「ぬるい改革など不要だ。生き恥を晒すがいい!」
会場がざわついた。
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レイは静かにマイクを取る。
「……固さはな、押し付けるもんじゃねえ」
一歩、前に出る。
「固さは愛だ!」
その一言が、胸を打つ。
「生徒を信じて、時間をかけて守る。
それができないなら――」
黒皇を真っ直ぐ見る。
「これまでなのか?」
拍手が起きる。
副会長ハルは、即座に補足資料をスクリーンに映す。
規律と自由の両立、その実例。
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「……ちょっといいですか」
ねんが、いつもの調子で手を挙げた。
「粘土は水で濡らすとヌルヌルします」
会場「???」
黒皇が苛立つ。
「何の話だ!」
「つまりですね」
ねんは続ける。
「力を入れすぎると、形は崩れる。
でも、水――つまり“余白”があると、強くなる」
ざわめきが、理解へと変わる。
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討論は、日常の話題へ。
「長時間のスマホの使用は良くないよね」
ねんが言うと、黒皇が即答する。
「禁止すればよい」
レイが首を振る。
「違う。
食事のときくらいスマホ見るのはやめようよ、って
言える関係を作るんだ」
その言葉に、生徒たちがざわっと反応した。
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黒皇が立ち上がり、ねんを指差す。
「理想論だ! 貴様のやり方では、統率など取れん!」
ねんは一瞬、黒皇ではなく――
観客席のユウトを見る。
「……胸ばかり見てるのバレてますから」
「えっ!?」
笑いが起き、空気が一気に和らぐ。
その隙を、ねんは逃さなかった。
「人は、完璧じゃない。
だから、支配も放置も違う」
深く息を吸う。
「混ぜて、捏ねて、失敗して。
それでも前に進む学園を、私は選びます」
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沈黙。
そして――割れるような拍手。
黒皇は歯を食いしばる。
「……面白い」
レイは、ねんに小さく笑いかける。
「やるじゃねえか」
ユウトは、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
――この選挙は、もう誰かのものじゃない。
三者三様の“正義”が激突し、
生徒たちは初めて、自分で考え始めていた。




