炎の生徒会選挙編4
中庭の特設ステージ。
最初にマイクを握ったのは、現生徒会長・鷹宮レイだった。
「俺は、変えない」
その一言に、ざわつく生徒たちが静まる。
「この学園は、すでに戦ってきた。
問題が起きるたび、逃げずに、真正面からだ」
背後で副会長・九条ハルが資料を配布していく。
実績、数字、改善率――無駄がない。
「派手さはない。でもな」
レイは拳を握る。
「コツコツ行きますか!」
その瞬間、拍手が広がった。
ハルは小声で呟く。
「感情と実績のバランス……完璧です」
ユウトは思った。
――これが“王道”。
⸻
次の瞬間、空気が一変した。
黒いステージ、黒い幕。
黒皇ヴァルハルトは、玉座のような椅子に腰掛けていた。
「民よ、聞け」
その声だけで、空気が重くなる。
「秩序なき自由は、混沌だ。
余が統べることで、学園は“完成”する」
背後では補佐官たちが完璧な動きでビラを配る。
恐怖と魅力を織り交ぜた文言。
「……それでも私は優勢です」
黒皇は断言した。
観衆の一部が、確かに頷いている。
補佐官の一人が囁く。
「支持層は固い。しかし――」
黒皇は演説台を降りながら、低く笑った。
「まさか捏ね返されるとは思いませんでした」
その視線の先には、第三候補がいた。
⸻
ステージに現れたねんは、いつもの作業着だった。
「……え?」
ざわめき。
「何も履いてないの?」
誰かの失言に、ねんは首をかしげる。
「履いてますよ。思想を」
一瞬の沈黙のあと、笑いが起きた。
ねんはマイクを両手で持つ。
「私は、偉そうなことは言えません」
補佐官役の部員たちが、地道にポスターを貼り替えていく。
一枚一枚、丁寧に。
「でも、考え続けます。
これでもかってくらい、息を吸います」
深呼吸。
「そして、形を作る。
皆さんの意見を――混ぜて、捏ねて」
黒皇の陣営がざわつく。
「いったい何の粉を使っているんだ?」
誰かが呟く。
ねんは微笑んだ。
「特別なものじゃありません。
誰の家にもある、“考える力”です」
拍手は、じわじわと広がっていった。
⸻
演説後。
水面下では、別の戦争が進んでいた。
副会長ハルは、デマを即座に論破し、数字で封じる。
黒皇の補佐官は、恐怖と甘言で支持層を固める。
ねんの部員たちは、誰よりも地味に、誰よりも誠実に動く。
ケンがユウトに囁く。
「なあ……この選挙」
「うん」
「普通の選挙じゃないよな」
ユウトは、三人の候補を見つめた。
守る者。
支配する者。
捏ね直す者。
――そして、まだ表に立っていない自分。
選挙戦は、最終局面へ向かって加速していく。




