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アーム・ゼロ  作者: 境乃 シキ
5/10

炎の生徒会選挙編4


 中庭の特設ステージ。

 最初にマイクを握ったのは、現生徒会長・鷹宮レイだった。


「俺は、変えない」


 その一言に、ざわつく生徒たちが静まる。


「この学園は、すでに戦ってきた。

 問題が起きるたび、逃げずに、真正面からだ」


 背後で副会長・九条ハルが資料を配布していく。

 実績、数字、改善率――無駄がない。


「派手さはない。でもな」


 レイは拳を握る。


「コツコツ行きますか!」


 その瞬間、拍手が広がった。


 ハルは小声で呟く。


「感情と実績のバランス……完璧です」


 ユウトは思った。

 ――これが“王道”。



 次の瞬間、空気が一変した。


 黒いステージ、黒い幕。

 黒皇ヴァルハルトは、玉座のような椅子に腰掛けていた。


「民よ、聞け」


 その声だけで、空気が重くなる。


「秩序なき自由は、混沌だ。

 余が統べることで、学園は“完成”する」


 背後では補佐官たちが完璧な動きでビラを配る。

 恐怖と魅力を織り交ぜた文言。


「……それでも私は優勢です」


 黒皇は断言した。


 観衆の一部が、確かに頷いている。


 補佐官の一人が囁く。


「支持層は固い。しかし――」


 黒皇は演説台を降りながら、低く笑った。


「まさか捏ね返されるとは思いませんでした」


 その視線の先には、第三候補がいた。




 ステージに現れたねんは、いつもの作業着だった。


「……え?」


 ざわめき。


「何も履いてないの?」


 誰かの失言に、ねんは首をかしげる。


「履いてますよ。思想を」


 一瞬の沈黙のあと、笑いが起きた。


 ねんはマイクを両手で持つ。


「私は、偉そうなことは言えません」


 補佐官役の部員たちが、地道にポスターを貼り替えていく。

 一枚一枚、丁寧に。


「でも、考え続けます。

 これでもかってくらい、息を吸います」


 深呼吸。


「そして、形を作る。

 皆さんの意見を――混ぜて、捏ねて」


 黒皇の陣営がざわつく。


「いったい何の粉を使っているんだ?」


 誰かが呟く。


 ねんは微笑んだ。


「特別なものじゃありません。

 誰の家にもある、“考える力”です」


 拍手は、じわじわと広がっていった。



 演説後。

 水面下では、別の戦争が進んでいた。

 副会長ハルは、デマを即座に論破し、数字で封じる。

 黒皇の補佐官は、恐怖と甘言で支持層を固める。

 ねんの部員たちは、誰よりも地味に、誰よりも誠実に動く。


 ケンがユウトに囁く。


「なあ……この選挙」


「うん」


「普通の選挙じゃないよな」


 ユウトは、三人の候補を見つめた。


 守る者。

 支配する者。

 捏ね直す者。


 ――そして、まだ表に立っていない自分。


 選挙戦は、最終局面へ向かって加速していく。

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