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五章 見えない国境線

 書類は、すべて揃っていた。

 アメリカの運転免許証、居住証明のレター、パスポートのコピーに住民票。申請用の写真、そして翻訳証明書。

 テーブルの上に並んだそれらは、アメリカで過ごした日々の断片が、静かに一堂に会しているかのようだった。


 和夫は黙ってそれを見下ろし、机に手を添えた。30数年という時間が、この紙の束に静かに折りたたまれている。深く息を吸い込み、その重みに、改めて向き合った。


「智恵子、書類は揃った。明日、朝一で免許センターに行こうと思うんだ。」

 和夫がそう告げると、テーブルの上に整然と並んだ書類が一層、重みを持つように感じられた。


「旅に出る準備って、ほんとにいろんな形があるのね。」

 智恵子が微笑みながら言った。彼女の目には、どこか遠くを見つめるような光が宿っていた。


「旅の準備もまた、旅の一部って言うじゃないか。」

 和夫は軽く肩をすくめ、にっこりと笑った。その顔には、少しの懐かしさと、これからの未来に向けた確信が混じっているようだった。


 その一言に、智恵子の口元がふっと緩んだ。

 たしかに――目的地にたどり着くことだけが旅ではない。旅は、その始まりの瞬間から、すでに始まっているのだ。


 和夫は再び、書類を一枚ずつ確認し始めた。不足に気づけばすぐに補い、再度見直す。その作業は面倒で、わずかに苦痛を伴うが、ふと胸の奥に芽生えた微かな高揚感に、和夫は驚く。


 一枚一枚確認を終えるたびに、心にじんわりとしたわくわくが広がっていく。それは、遠く旅立つ前夜に感じる、あの静かな胸の高鳴りに似ていた。そう思うと、目の前の紙の束が、ただの「書類」ではないように思えてくる。

 パスポートも、住民票も、翻訳証明書も――それらは、過ごしてきた時間を証明し、未来へ進むための「鍵」だった。

 次の一歩を踏み出すために必要なのは、決して紙の枚数ではない。胸の奥に確かに感じる、自分自身の意志と、それに伴う小さな希望が。


 ──翌日、まだ眠気の残る早朝。和夫は九里駅の改札を通り抜けた。ポケットには書類ケースを忍ばせ、肩には軽い布製のトートバッグをかけている。電車の時刻表を確かめながら、自然と足はホームへと向かっていた。


 プラットホームには、すでに通勤客や学生の姿がちらほら見受けられる。蛍光灯に照らされた線路の先から、「ガタン、ゴトン」と列車の足音が近づいてくる。


 電車は郊外へと向かい、窓辺にはのどかな田園風景が広がる。茶畑の緑、遠くに霞む山並み、田んぼの水面に反射する朝陽。和夫の頬には、朝の冷気でうっすらと紅が差している。


 仙川田駅で降りて、ロータリーを抜けると、春の花鉢が並んだ舗装された道が続いている。足元から小さな足音がコンクリートに響くたびに、心の中でも微かに鼓動が高くなるのを感じる。遠くには、目を引く大きな看板が掲げられた免許センターの建物が見えてきた。


 ここから歩いて15分。手続きのことを考えると、少し不安もある。国際免許を切り替えるのは初めてで、どうすればスムーズに進むのか、少し緊張している自分を感じる。今までの運転経験も悪くはなかったはずだが、それでも新しい環境に馴染むことへの期待と不安が入り混じる。


 センターに近づくにつれて、目の前の大きな建物がどんどん迫ってくる。その入り口に足を踏み入れた瞬間、これから自分の新しい運転生活が始まるのだと思うと、胸の中にちょっとした高揚感が湧いてきた。心地よい春の風が、少し肩の力を抜いてくれるように感じる。


 8時45分にセンターの入り口に到着すると、すでに30人以上が並んでいるのが見えた。列の先頭は遥か遠く、まるで国境の検問所にでも並んでいるかのような錯覚に陥る。中国語や韓国語、インドネシア語、タイ語らしき声が飛び交い、まるで異国の市場のような喧騒が広がっていた。


「……場違いなところに来たみたいだな」 和夫はふと、そう感じた。


 母国でありながら、どこか“よそ者”になったような妙な疎外感が、胸の奥にじわりと広がっていく。

 やがて列が少しずつ進み、ようやく和夫たちの番が近づいてきた。窓口の前に立ち、和夫は丁寧に頭を下げて言った。


「すみません、外国運転免許証の切り替えに来たのですが……」


 すると、窓口の職員は無表情のまま、じろりと和夫を見た。その視線は冷たく、まるで彼の存在そのものを審査するようだった。


「番号札は持っていますか?」


「いえ……今、初めて来たので……」


「今ですか?」


 職員の声には、わずかに呆れの色が混じっていた。その言葉の温度は冷たく、まるで冷水を浴びせられたかのようだった。


「はい。受付時間が八時半からと書いてあったので……」


「そうですか。でも、今日は無理だと思います」


「え……?」


 耳を疑った。受付時間内なのに、「無理」とはどういうことだ。


「ここに並んでいる皆さんだって、全員が書類審査を受けられる保証はないんですよ。皆さんはもっと前から並んで待っているんです」


 理屈が通らない。納得もできない。和夫の中で、その言葉が何度も、何度もこだました。


「そんな……それじゃあ、事前に何を確認して来ても意味がないじゃないですか」


「規則ですから」


 言い切られたその瞬間、和夫の中で何かがぷつりと切れた。


「私は一時間半もかけて電車に乗って、ここまで来たんですよ」


「ええ、皆さんそうです。職員もね」


 その言葉は、火に油を注ぐようだった。努力を否定されるような、誠意を嘲笑われるような──理不尽の極み。


「……そんな理屈が通るんですか?」

 問い詰めても、職員の顔は変わらなかった。感情を削ぎ落とした仮面のように、ただ「無理」の一点張り。


「こんな非効率的なシステムが、なぜまかり通っているんだ……」

 小さくつぶやいた声は、自分でも驚くほど震えていた。


「……明日、もう一度来よう」

 小さな声でそう呟き、和夫は重い足取りで帰路についた。



 翌朝の始発の電車。車内にはほとんど人がおらず、がらんとした空間が余計に孤独を強調した。 

 駅へ向かう道には、わずかに霜の残るアスファルトが光り、東の空には雲がほんのりと茜色を帯びながら、ゆっくりと流れていく。電車を乗り継ぎ、さらにバスを使って、ようやく免許センターにたどり着いたのは、朝の七時半を回った頃だった。


 一番乗りだろう――そう高を括っていた和夫の目に飛び込んできたのは、すでに列を成して並ぶ数十人の姿だった。

 厚手のコートに身を包み、ポケットの中で手を擦り合わせる彼らの姿は、どこか切実で、どこか懸命だった。和夫はその列の最後尾に静かに加わった。冷たい風が頬をかすめ、首元を押し上げるようにして身を縮める。やがて、金属製の門が軋みながら開き、列はゆっくりと建物の中へと吸い込まれていった。


 無機質な白い廊下、冷たい空気の漂う階段、そして「待合室」と名のついた殺風景な空間。硬いプラスチック製の椅子に腰を下ろすと、冷たさがじんわりと体に染み込んできた。和夫は背もたれに体を預け、目の前に座る人々をぼんやりと眺めた。


 膝の上に分厚い書類を抱え、不安げにその端をなぞる若者。まっすぐ前を見据え、何かを噛み締めるようにして動かぬ中年の男。時折、ちらりと窓口の方を窺っては、小さく漏れるため息。そこに漂うのは、言葉にできない緊張と、切望と、孤独の気配だった。


 係員が静かに歩み寄り、無表情のまま番号札を配り始める。手渡される札は、まるで機械のように滑らかで、感情の入り込む余地を一切許さない。口元だけがわずかに動き、日本語での説明が淡々と流れる。だが、言葉を解さぬ者たちは、その動く唇に必死に視線を注いでいた。目は真剣で、どこか切羽詰まっていて、それでも諦めない強さが宿っていた。


 十時を回ったころ、ようやく番号を呼ばれ、書類を提出した。狭い面接室。机を挟んで座る若い職員が、無表情で和夫の顔を見つめる。


「それでは、アメリカでの運転免許取得の経緯を説明してください」低く、事務的な声だった。


 和夫は一瞬、言葉を詰まらせたが、すぐにゆっくりと語り出した。どんな教習所で学んだか、どんな道を走り、どれほどの年数、どんな交通ルールの中で暮らしていたか。家族を乗せて夜のフリーウェイを走ったこと。店への仕入れに、何百キロも運転したこと。――それは、単なる運転ではなかった。生活そのものであり、人生の一部だった。


 職員はときおり頷きながらメモを取り、最後に一言だけ言った。「分かりました。書類は完璧です。学科試験までは……およそ三ヶ月ほどお待ちいただくことになります」


 その言葉に、思わず声が漏れた。「三ヶ月……?」


 遠い記憶が鮮やかに蘇る。フロリダでは、申請も試験もすべてがその日のうちに済んだ。手続きは簡素で、試験官とのやりとりもどこか人間味があった。

 だが、いま目の前に立ちはだかるのは、ひどく長く、冷たく、そして一律に整えられたシステムだった。


 それから三ヶ月が経ち、学科試験の日を迎えた。試験は十問だけの簡単な内容で、無事に合格することができた。だが、本当の関門はその先に待っていた。


 実技試験当日。和夫は一番最初に呼ばれた。


「ええっ、一番最初ですか? コースもよく覚えていないし、心の準備がまだ……。できれば彼女が先で、そのあとに私じゃダメですか?」


 必死の懇願もむなしく、試験官は無表情のまま淡々と指示を出す。


「ドアを開けて、あなたは運転席に座ってください。次の方は後部座席にどうぞ。」


 和夫は震える手でドアを開け、運転席に身を沈めた。心臓は激しく鼓動し、手のひらは汗でびっしょりだ。エンジンをかけ、ゆっくりと車を走らせるが、コースはまったく頭に入っていない。試験官は機械のような声で淡々と指示を出す。


「そこを右に曲がってください。次は左に入ってください。」


 その冷徹な口調に、和夫の緊張はさらに高まった。頭の中は混乱し、指示の言葉が耳からすり抜けていくように感じる。試験官の声が響くたびに心拍数は上がり、運転に集中することがどんどん難しくなっていった。


 冷たい汗が額を伝い、指先は震え、視界はぼやける。目の前のコースを、ただ必死に走り抜けるだけだった。焦燥感が和夫を支配し、「落ち着け」と心の中で何度も言い聞かせるが、その言葉すら届かない。


 次の瞬間、ガタン――。車体が傾いた。脱輪だった。息が詰まる思いでハンドルを握りしめる和夫に、試験官は静かに言った。


「出発地点へ戻ってください。」


「えっ、終わりですか? 一番最初の受験なんですから、少しはハンデを……」


「出発地点へ戻ってください。」


 同じ言葉が冷たく響き、実技試験はあっけなく終了した。


「不合格です。」その言葉が重く、胸に突き刺さった。


 和夫は静かに車を降り、試験官に一礼し、試験場を後にした。周囲の視線が痛いほどに感じられ、自分の足音だけがやけに大きく響いた。


 試験場の外に出ると、空は薄曇りで、冷たい風が頬をなでた。和夫は深く息を吸い込むが、心のざわつきは収まらない。


 和夫はアメリカでも運転していたし、日本でも国際免許で車を運転していた。長年の運転経験からくる自負が、いつしか謙虚さを失わせていたのかもしれない。「こんなはずじゃなかった……」と、天狗のように高かった鼻がへし折られたような気がした。


 家に帰ると、智恵子が玄関で出迎えてくれた。いつものように優しい笑顔を浮かべていたが、その奥に、和夫の表情を察する気配があった。


「どうだったの?」智恵子の問いに、和夫は少し黙り込んでから、肩をすくめて答えた。


「ダメだったよ……」


 しばらくの沈黙のあと、智恵子はゆっくりと近づいてきて、無言で和夫の手を握った。その温もりに、和夫の心は少しだけ和らいだ。


「大丈夫よ。また次があるわ。焦らずにね。」


 智恵子の言葉は、和夫の胸に深く染み込んだ。試験の結果がどうであれ、彼女は変わらず自分を支えてくれる――

 その思いが、何よりも大きな力になった。


 一週間後、和夫は再び試験場へ向かった。前回の失敗を教訓に、今度は落ち着いて臨むことができた。智恵子の「大丈夫、絶対にうまくいくよ」という言葉が、心の支えだった。穏やかな風と青空のもと、和夫は足取り軽く試験場へと向かった。


 今回は、レンタカーで練習を重ねた成果もあり、コースも運転操作も自信があった。試験官の指示に従って運転席に座る。


「これなら大丈夫」と心の中で呟いた。


「それでは、スタートしてください」


 試験が始まると、和夫は落ち着いて車を走らせた。指示どおり右に曲がり、左に入る。前回のような焦りはまったくなかった。


「左に曲がってください」


「はい」


 そう答えてS字カーブに入る。このままでも脱輪せずに曲がれると思ったが、念には念を入れて一旦停止し、後方確認のうえ少しバック。余裕をもってS字をクリアした。


 試験官は無言のまま、前方を見つめていた。チェック項目に記入する様子もなかったが、不安は感じなかった。

 いくつかの確認ポイントを無事にこなし、最後のチェック地点に到達する頃には、和夫の中に確かな手応えがあった。


「お疲れ様でした。合格です」


 その言葉に、和夫は胸の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。後部座席にいた中国人女性の受験者も、小さく拍手を送ってくれた。


「智恵子、これで日本巡りの旅に出られるぞ!」


 合格を報告すると、電話越しに彼女の明るい声が響いた。


「おめでとう、和夫! 本当に良かったね!」


 その言葉に、嬉しさと感謝の気持ちが込み上げた。試験の日々は、和夫にとってかけがえのない成長の時間となった。


 合格後の免許交付まで、二時間。和夫は試験場の待合室に腰を下ろし、静かにその時を待っていた。

 冷たいスチール椅子の並ぶ室内には、さまざまな言葉と表情が入り交じっていた。肌の色も、発音も、日本語の語順さえも違う彼らは、しかし一様に沈黙のなかに身を置いている。口数は少なく、ただじっと、自分の順番を待っていた。


 和夫の隣に座る青年が、恐る恐る話しかけてきた。


「あなたも……合格、ですか?」


 その問いかけは、日本語としてぎこちないが、確かな達成感と安堵が滲んでいた。青年はバングラデシュから来た技能実習生だという。六回目の挑戦で、ようやく合格したと話してくれた。


「今回は落ち着いてできたんです。練習、いっぱいしました。」


 その目には疲労と焦燥が同居していた。落ちれば、帰国させられるかもしれない。次はない――そんな切迫感が彼の言葉の端々から伝わってきた。


「朝六時から夜まで仕事。休み、月に二回。でも、日本語、まだうまくない。」


 そう話す彼の肩には、見えない重荷がのしかかっているようだった。


 やがて、別の男性がぽつりと語り出す。


「俺はフィリピン。建設の仕事だけど、ケガしても休めないよ。病院行くと、会社が嫌な顔するんだ。」


 その指には、包帯が巻かれていた。労災を申請すれば、雇い止めにされるかもしれない。それが現実なのだ。


 誰かがつぶやいた。


「免許あると、給料上がる。仕事、増える。だから、がんばった。」


 この一言に、彼らの労働環境と、それを支える制度の歪みが詰まっている。免許はただの資格ではない。彼らにとっては、生きるための“許可証”なのだ。そして、免許交付の手続きが始まった。


「これから免許証をお渡しします。その前に、この書類に必要事項を記入してください。」


 係員の言葉は、事務的で冷たかった。和夫の手にも書類が配られたが、思わず目を見張った。


(すべて、日本語か……しかも、漢字ばかりだ)


 簡単な説明もない。英語も、中国語も、やさしい日本語すらない。国籍に関係なく、誰もが同じ書類に同じように記入できることが“当然”とされている。


 ――だが、それは「日本語が読める人間」しか想定していない前提だ。


 目の前にいる青年も、他の受験者たちも、書類の前で手が止まっていた。表情が変わる。喜びは消え、代わりに困惑と不安がにじむ。和夫は、たまらず声をかけた。


「住所と名前を書く欄は、ここですよ。」


 青年がはにかみながらうなずき、慎重にひらがなで自分の名前を記し始めた。だが、住所を書くあたりで筆が止まる。ため息をつき、眉をひそめる。


 和夫は静かに言った。「よかったら、代わりに書きましょうか?」


 青年は言葉を失い、数秒の沈黙のあと、小さく頭を下げた。「……お願いします。」


 和夫がペンを走らせると、次々と他の外国人たちも声をかけてきた。


「私のも……いいですか?」


「ここ、なんて書くか、わからない……」


 和夫は、無言でうなずき、黙々と彼らの書類を記入していった。その手を止めながら、ふと思った。


(これほど多くの人が困っているのに、それに気づく仕組みすらないのか……)


 書類は、ただの一枚の紙ではない。制度そのものだ。そして、その制度は、最初から“日本語ができること”を前提に作られている。


 彼らは、言葉の壁と戦いながら、生きている。だが、その壁を前に、制度は何もしてくれない。そして多くの日本人は、ただそれに気づかずに通り過ぎる。


(これが、“受け入れる”ということなのか?)


 外国人労働者が足りない、と国は叫ぶ。だが、彼らが実際に暮らすための制度や支援は、あまりに貧弱だ。形式的な「多文化共生」の言葉だけが先走り、現実は置き去りにされている。


 和夫には、身に覚えがあった。

 アメリカで暮らした30年。どれだけ努力しても、「外国人」というラベルが外れることはなかった。

 職場での視線、制度の壁、何気ない言葉に潜む差別。それでも支えてくれた人がいた。だからこそ今、自分にできることがあると思えた。この国で生きようとする彼らが、ひとりでも多く、誰かの支えに出会えますように――。和夫は静かに願いながら、また一枚、名前と住所を綴っていった。


 帰りの電車の窓に映る自分の顔を見ながら、和夫は思った。

 この国に生きるということは、誰の物語を、どこまで自分ごととして引き受けられるかという問いなのだと。


 彼らの名前を書きながら、彼らの手助けをしながら、ほんの一瞬、その問いの重みが、自分自身の過去と重なった。


 支援とは、上から手を差し伸べることではない。ともに立ち止まり、見つめ、歩みを合わせること。

 そして、制度とは本来、誰もがその歩みに参加できるように整えるべきものではないのか――。


 窓の外に流れる景色は、いつもと変わらなかった。

 なぜか、和夫の中には、小さな違和感の種が、確かに芽吹いていた。

 ここまで物語にお付き合いくださり、ありがとうございます。

 和夫の静かで切実な時間に、あなたがそっと寄り添ってくださったこと、

 物語を紡ぐ者として、これ以上ない喜びです。


 あなたは、どんなふうにこの物語を受け止めてくださったでしょうか。

 過去を振り返るとき、人は時に立ち止まり、そしてまた歩き出します。

 和夫にとっての「振り返り」が、どこへ向かっていくのか。

 その続きを、ぜひあなたの目で見届けていただけたら嬉しいです。


 どうか、次もまた、この物語のそばにいてください。心よりお待ちしています。



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