邪神と永遠と狂愛
俺はある日恋をした。
いつも通り暗黒界から地上を見上げていると、一人の少女が視界に入った。
一目惚れ。
彼女は貴族で、美しい容姿をしながら、楽しげに笑い、誰にでも優しい、赤いドレスがよく似合う少女。魔族故の角は彼女には少し似合わないが、それも含めて美しい。完璧でも、邪悪でもない、素朴な少女。俺とは対極にあるような人だった。
俺は邪神。人々の邪な心を糧に生まれ、神格化した存在。
そんな世界の汚物の塊が、一つの穢れもない、美しい者に恋をするとは思わなかった。
『恋は人を浄化する』なんて言葉はあるが、少なくとも俺は浄化されることはなかった。
しかし彼女を人知れず眺めているだけで俺は満たされた。
「美しい。」
その日から、それが俺の口癖になっていた。
◆◇◆◇
ある日、天界神の介入のある、勇者召喚が行われた。
そんなことはどうでも良かった。しかし、その勇者は純粋、、、というか馬鹿だった。
天界神は俺と敵対している。俺を取り除きたがっている。
しかし神は簡単に世界に介入できない。
故の勇者召喚だろう。
俺は魔族の大地に封印されており、大量の血肉で復活する。
復活しないと俺は殺せない。一度復活させるつもりだろう。
その勇者は魔族が邪神の眷属だという言葉を信じ、勇者の力により、魔族の大量虐殺を行った。
あの少女は両親とともに逃げていた。
彼女は日に日にやつれていき、笑った顔が見れなくなってしまった。
今すぐに勇者をぶち殺してやりたかったが、俺は贄が無いと復活できない。
彼女が勇者に見つかった。だめだ。やめろ!
「見つけたぞ魔貴族!!邪神を崇める穢れし者め!!」
何を言っているんだこの馬鹿は。俺はしっかり魔族からも蔑まれている。
俺は穢れから生まれる。主に人間どもの穢でな。
更にいうと魔族は基本穢れの薄い種族で、ましてや彼女の穢れなど俺の中には一片たりとも入っていない。
勇者、お前の穢れなら結構入っているぞ。お前が殺した者達の呪いも俺に力をくれる。
憎き勇者を殺せ 兄の仇を討ってくれ 私の首を返してくれ
色々な呪いが俺を復活へと駆り立てる。もう一人、もう一人の血肉があれば、俺は復活できる。
早く、早くしてくれ。俺の愛する、美しい、あの少女が今にも殺されんとしている。
「退魔斬!」
彼女の首が宙を舞う。皮肉にも、彼女の血肉で俺は復活した。
「ぶち殺してやる!!!!!!」
俺は、78個の全ての目から涙を流し、咆えるように叫んだ。
最期に彼女が守った彼女の両親を傷つけぬよう、細心の注意を払いながら、俺は力の限り暴れた。
《禁忌魔法・大罪二位、憤怒》
俺は何億年も待ち望んでいたはずの復活を、新たな生命の寿命を代償に、勇者を、人間の国を、塵蟲の生息地帯を、大地ごと消し去った。流石にここまでするとは天界神も想定していなかったのだろう。
この大陸は、あの少女が死んだ地点を境目に、6分の5が消え去った。
ああ、愛しの名も知らぬ少女よ。俺の全てよ。
俺は君を愛そう。彼女は死んでしまったが、俺の全存在を賭ければ蘇らせることができるかもしれない。
君は俺を知らないだろう。だが俺は君を愛する。この愛情を、俺の全存在、加えてあらゆる生物の命を代償に、君に与えよう。
君は不幸にも邪神に愛された。
君はその、美しい姿を永遠に保ち続けるだろう。
周りの生命の寿命を吸い取り、別世界に転移し続けることで、君は永遠の命を手に入れる。
永遠に生きるのだ。辛いだろう。恨め。俺を恨み続けることで、俺の存在を永遠に君の記憶に留めておいてくれ。
俺は二つの呪いをかけた。
無差別寿命奪取、滅亡後転移。
これで君だけは永遠だ。たとえいつか解かれようと、それまでに3兆年以上の寿命を得ていれば、それを代償に不老不死になれる。君は永遠だ。
俺は薄れゆく意識の中、無事彼女が再生し、両親の寿命を奪うところを確認した。
考えなかったわけではない。それも含めて、俺を恨んでくれれば、それで。
彼女が泣いている。ああ、泣き顔も美しい。
邪神の心を、彼女は知りません。
ぜひ感想をください。でも悪口は言わないでください。