ボス戦前半
いよいよボス戦です。
ボスがいるエリアにたどり着くまでに新しく手に入れた刀の試し切りをする。クマのような姿のモンスターの攻撃をいなして無防備になった首を切り裂く。動きこそウルフなどよりも遅いものの攻撃力や防御力は高いため、初心者の刀では刃が通り辛かっただろうが新しい刀は問題なく切り裂いた。
やはりいい刀だ。先ほどまで使っていた初心者の刀ではここまで簡単に切ることはできなかっただろう。アンナの腕の良さに感心しながら道中を進む。
しばらく進んでいると少し開けたエリアに出た。進もうとすると、
『この先ボスエリア。一度入るとボスを倒すか、死ぬまで出ることはできません。進みますか?』
というメッセージが現れた。どうやらこの先がボスエリアのようだ。どこにもボスがいるようには見えないがおそらくあのメッセージにYesと返して中に入るとボスが現れるのだろう。とりあえず1度Noを押し、先輩と最終確認をする。
「着きましたねシエルさん」
「ん、準備できてる?」
自分の体力が減っていないことを確認し、装備にも問題がないことを確認する。ここまで僕も先輩も一撃もくらっていないので体力は一切削れていない。そのため刀を買うついでにリリアン商会で買っていたポーション類は一切使っていない。
「ええ、問題ないです」
確認を終えた僕は先輩に返事をする。
「ん、なら行こっか」
{もうボス戦か}
{↑それな、早すぎるwしかも北だし}
{頑張れー}
{勝てますように}
{さすがにボスは厳しい気がするが}
{でもこの2人ならいってくれそう}
ボス戦ということもありコメント欄も今まで以上に盛り上がっている。さすがに難しいという意見といけそうという意見が五分五分といった様子だ。
まあ、確かに北のボスに挑むには早すぎるといっていいだろう。1番難しいエリアなのに加え、僕たちは2人だけだ。西エリアのボスを倒したパーティーが5人なのを考えると厳しいという意見は当然だ。むしろいけるという声が半分近くあるのがおかしいぐらいだ。
まあ、とはいっても負けるつもりは一切ない。先輩も僕も気負ってる様子はないし、僕の感覚も少しずつ戻ってきている。
「ええ、行きますか」
メッセージにYesと返し中に足を踏み入れた瞬間——
「オオオォォォーーーン!」
モンスターの雄叫びが響き渡る。あたりを見回すと中に入るまでは何もいなかったはずの場所に今までのウルフよりずっと大きな狼型のモンスターが現れる。またその周りには普通のウルフが取り巻いている。
とりあえず通じないことは分かっているが識別のスキルを発動させる。
【識別】
種族名:グ●●ター●ルフ
とうとう種族名すら読み取ることができなくなった。おそらく、グレーターウルフだと推測できるが、名前すら読み取れないということは最初にウルフと戦った時よりステータスに差があるということを意味している。
「シエルさん、とりあえず一太刀浴びせに行くので取り巻きはお願いします!」
「ん、了解」
切ってみないと分からないこともあるので取り巻きは先輩に任せて、僕はボスに攻撃に行くことにする。相手が動くより先に相手に肉薄する。普通のウルフよりも素早い反応を見せるが、それでも遅い。
掬い上げるように放った一閃はボスの下顎を切り裂くと思われたがあまりの硬さに刃が通らない。
「硬えなオイ!」
今度はお返しとばかりにボスが爪で僕を切り裂こうとする。受け流してカウンターを喰らわせようと試みるが、膂力に差がありすぎたため、かろうじて受け流すことには成功するもののカウンターには繋げられない。
「ステータス差ってのは厄介だな」
そもそも当たり前のことだが剣術というのは基本的に対人間を想定している。もちろん人間相手でも自分より膂力が上の相手と戦うことがあるのでそれを想定した技なんかもあるのだが、ここまで差があるのは人間相手ではあり得ない。
一度仕切り直し、ボスの体力を確認するが数ドットしか削れていない。これは厳しい戦いになりそうだ。そう思いながら、先輩に目を向けると取り巻き相手に無双していた。あれだけの数の敵を相手にするとクールタイムの管理がカツカツで大変だと思うのだが問題なく戦闘を続けている先輩はやはり普通じゃない。
先輩の方は特に問題なさそうなのでボスをどうにかする方法を考える。生半可な技ではあの硬さを貫くことはできないだろう。であるとするならば、
睨み合いに焦れたボスがこちらに突っ込んでくるタイミングで僕は体を前に倒し自分の体重と刀の重さ全てを推進力に変える。相手が僕を切り裂く前に勢いを全て切先に集中させ相手の喉仏を狙って神速の突きを繰り出した。
やはりかなり硬い感触だがなんとか喉を貫くことに成功する。反撃を喰らわないために怯んでいるボスの体を蹴り刺さっていた刀を抜く。そのまま追撃を与えるため普段片手で振るっている刀を両手で握り上段に構える。
——この世で1番強い武器は何か。男なら1度は調べたことがある人も多いだろう。人によって結論は異なるだろうが、切るというただ一点に関して言えば日本刀より優れた武器を僕は知らない。
僕が小さい頃、師匠にもし刀で切れない敵が現れたらどうするのかと尋ねたことがある。師匠はその問いに初心者でも刃物で人を切りつけようとした時、錆びてさえいなければ刃が通らないことはないと思うがと前置きを置いた後、
「極めたら日本刀に切れないものなど存在しない」
そう答えた。もちろん今の僕が剣の道を極めたとは口が裂けても言えないが目の前の相手すら切れないほど自分が弱いとも思わないし、そんな甘い鍛え方はしていない。
そんな想いを抱きながら、僕は地面が割れるほど強く踏み込み僕が修めている剣術の中でもかなり威力が高い技を繰り出す。
——雲耀
流派によっては奥義などといった場所に分類する所があるほど威力が高いその技はボスの体をしっかりと切り裂いた。致命傷には至らなかった攻撃だが、先ほどまで多少僕を舐めていた様子があった雰囲気が一気に鋭くなる。
「はは、このゲームは本当にリアルだな」
普通のウルフなどでは感じなかった、相手を殺すという明確な意思を持った殺気が僕に向けられる。味覚や聴覚といった誰でも感じられる分かりやすいものではない殺気といった酷く曖昧な感覚をどう再現したのか分からないが、久しく感じていなかった感覚に僕の剣が研ぎ澄まされていくのが分かる。
本気になったボスと全盛期に更に近づいた僕が交差する。激しい戦いになるが時間が経てば経つほどボスの攻撃に慣れた僕の攻撃が確実にボスの体力を削っていく。膂力こそとんでもない差があるが、ボスの攻撃はそのほとんどが普通のウルフの動きを早くして威力が上がったぐらいだ。
力比べにならないようにだけ気をつけてボスの体を確実に切り裂いていく。急所を狙う余裕も出てきてボスの体力を削るスピードが上がっていく。そのまま圧倒できるかと思われたがボスの体力が半分を切ったタイミングで勝手に沸いていた取り巻きのウルフの群れが消え、ボスの体から赤いオーラが発される。
嫌な予感がした僕は一度ボスと距離を取り、取り巻きを相手していた先輩と合流する。
「こっからが第二ラウンドだね、ネージュ」
疲れた様子が一切見えない先輩が話しかけてくる。
「ええ、そうですね。集中していきましょう」
言葉通り油断する気は一切ないが、取り巻きを消してしまうのはとんでもない悪手だと思う。もちろん赤いオーラを纏っているボスは先程までより強化されているのだろうが僕と先輩が合流した以上一切負ける気がしないし、なんならボスの強化より僕たちが一緒に戦うことの方が強化幅が大きい気がする。
そんなことを思いながら第二ラウンドが始まった。
戦闘描写はやっぱり難しい…
精進します。