公開告白と初戦闘
今日は成人式ということで、新成人の皆様おめでとうございます。
先輩が配信画面を見せてくる。
{やっと気づいたw}
{彼氏さん、こんちわ}
{初めましてー}
たくさんのコメントで溢れていた。配信画面の下の方に接続数が表示されているが……1万人!?
「え!? いつから始めてたんですか!? それに接続1万人って!」
動揺が抑えられず先輩を問い詰める。
「ネージュと合流する前から」
「ってことは今までの会話も全部聞かれてたってことですよね?」
「そうだね」
なんてこった。もともと先輩1人のチャンネルだったところに急に入ることになるんだから視聴者の方に失礼にならないように自己紹介とか色々考えてたのに。
「もうちょっと、こう打ち合わせとか色々あるじゃないですか。何でいきなり始めてるんですか」
「打ち合わせ? そんなの私とネージュなら必要ない」
何故か自信満々でいる先輩に僕はついていけない。
「何でそんな自信あるんですか」
「そんなことより早く視聴者に自己紹介したら?」
そうだった! あまりの衝撃で基本的なことを忘れてしまっていた。
「そうでした! えーっと、みなさんこんにちは。えー、本日からシエルチャンネルに出演させていただきます、ネージュと申します。何卒よろしくお願いします」
いきなりのことで頭が動転していて、考えてきていた自己紹介用のセリフも飛んでしまったが、
{よろしくー}
{硬い硬いw}
{ようやく彼氏さん来たなー}
概ね好意的な反応が多そうだ。もともと女性1人でやっていたチャンネルに男が加わるなんてガチ恋達などに嫌われると思っていたのだが。それに先輩はすごく美人だし。
「予想より好意的な反応が多くてびっくりです。あ、あとそこ、別に僕と先輩は付き合ってないですからね」
彼氏さんなどというコメントがちょくちょくあるので訂正しておく。すると、
「え、私とネージュ付き合ってないの?」
何故か先輩から疑問の声が上がる。
{おっと、これは修羅場か?}
コメントからはそんな声が上がる。
「えっ、付き合ってないですよね?」
僕はそんな話をした覚えはないので少し不安になりながらも先輩に確認する。
「この前、私と一緒に来てって言ったらOKしてくれた」
すると先輩はもう忘れちゃったのとでも言いたげな様子でこちらを見つめてくる。
{女の子からの告白を忘れるなんてサイテー}
コメント欄でもそんな発言が相次ぐ。まずい、このままでは女の子からの告白を忘れたサイテー男という烙印を押されてしまう。
「いや、それは先輩と一緒に配信をするっていう話ですよね?」
慌てているせいでシエルさんではなく先輩と呼んでしまう。
「普通に考えて、一緒に配信するぐらいで私と一緒に来てなんて重い事言わない」
「いや、でもあの場面だったらそういう意味とは捉えないですよ」
「そう、ならもう1回言う、私のものになって」
{公開告白キタコレw}
{告白男前すぎるw}
{これに応えなきゃ男じゃない!}
1万人もの人が見ている配信中に先輩に告白されてしまった僕は思わず赤面してしまい、
「や、あの、えっと、ちょっと時間くれませんか?」
しどろもどろになりながらそうお願いすると、
「やだ、もう逃がさない」
先輩が僕の顔を挟んで逃がさないようにして、顔を近づけてくる。
「や、あの先輩近いです」
先輩の綺麗な顔が至近距離にあって、平静を保つことのできない僕はもはや顔から火が出るのではないかと思うほど赤くなっている。
{男と女の立場逆転してて草}
{ネージュくん顔真っ赤w}
{かわいい}
「私と付き合うの嫌? そんな事ないよね」
「嫌とかではないですけど、その、」
「私のこと好きだよね。見てたら分かる。だったら付き合おうよ」
好きじゃない訳ない。高校時代だって告白された時すごく嬉しかったし、できることなら恋人になりたかった。
「僕でいいんですか? 先輩ならもっといい男たくさん捕まえられますよ?」
最終確認をする。
「前も言ったけど、あなた以外考えられない」
しっかり僕の目を見てそう言う先輩。
「えっと、それじゃあ、よろしくお願いします」
精一杯の勇気を振り絞って告白の返事をする。
「ん、ありがと。嬉しい」
そう言って笑った先輩の顔は今まで見てきたどの先輩よりも美しくてかわいい笑顔だった。
「あ、同接2万人いった」
先輩のその一言で現実に戻された僕は配信中だったことを思い出して先程までの様子を1万人を超える人に見られていたことに思い至ってまた顔が赤くなる。コメント欄では
{カップル成立おめでとうー!}
{ネージュくんさっきからずっとかわいいw}
{シエルちゃんの想いがやっと叶って良かった!}
などと祝福の嵐。投げ銭も信じられないぐらい来ている。
「視聴者のみんな、今まで相談に乗ってくれてありがとう」
{いえいえー}
{ずっと話してた後輩くんと恋人になれてよかったですね}
{この日をどれだけ待ち侘びたことか}
「先輩、もしかして僕のこと過去の配信で話してました?」
「え、うん。どうやったら私のものにできるかとかみんなと話し合ってた」
道理でみんな、僕のことをスッと受け入れる訳だ。今までの配信でそんなことを話していたなら僕がいずれこのチャンネルに出るのは予定通りってことか。どんなことを配信で言われてたのが少し気になるが今はいいか。
「なるほど、そういうことでしたか」
「ん、そんなことよりそろそろフィールドに行こう」
思ったより時間が経っていたので(どう見ても時間が過ぎている要因は明白だが)少し急ぎ目で街を出てフィールドへ向かう。
「どっち側行きますか?」
「北側」
「いきなりですか」
「私とネージュなら問題ない」
「先輩は相変わらずですね」
始まりの街は東西南北にフィールドがあって、モンスターの強さは東→西→南→北の順に強くなる。今は始まったばかりだからほとんどのプレイヤーは東の森で多少自信があるやつが西に行っているぐらいだろう。
「それよりネージュ、呼び方先輩に戻ってる」
「あ、すいません。忘れてました。シエルさんですね」
「ん、」
そんな会話をしながら歩いているとコメントで質問が飛んでくる。
{βテスト時代最強と言われてたシエルちゃんはともかく、始めたばっかのネージュくんがいきなり北で大丈夫なの?}
当然の疑問だろう。そもそもβテスターでもほとんどが西で止まっている。そんな中βテスターでもない者が北に行くのは自殺行為に過ぎない。そんな視聴者の疑問に僕が答えようとしたら先輩が先に返事をした。
「全く問題ない。みんなもよく見ておくといい。ネージュの理不尽なくらいのリアルスキル」
{ゲームめっちゃ上手いシエルちゃんがここまで言うってすごいな}
{めっちゃ期待できる}
「そんなハードルあげられるとやりづらいですけど、まあ頑張ります」
それだけ言い、武器の確認をするために刀を抜く。
[初心者の刀]
・数打ちの刀切れ味は最低限しかない。初心者が使うには充分。
まあ、説明にもあるように数打ちの刀だ。相棒にはとても出来ないが今振るうだけならさして問題はない。数回素振りをしたあと刀を鞘に収める。
「さすがね」
すると、急に先輩に褒められた。
「え、何がですか?」
何故褒められたのか分からず首を傾げながら尋ねる。
「刀を持ってる姿が堂に入ってる」
「あー、そういうことですか。まあ、普通の人に比べたらそうかもしれませんね」
{素振りの切れヤバすぎ}
{これは期待できる}
そんなことを話しながら進んでいると、オオカミのようなモンスターが現れた。数は…5匹か。
「じゃ、シエルさん行ってきます」
刀を抜いてこちらの様子を伺っているモンスターに歩み寄ろうとしたら、
「ちょっと待って。せっかくなんだから識別のスキルつかったら?」
そのように指摘を受ける。自分のスキルなのにもう忘れてしまっていた。リアルで戦う時はそんなスキルないからな。ついつい忘れてしまう。
「そうでした。じゃ、真ん中のオオカミに【識別】っと」
スキル発動から3秒くらい空いてからモンスターの情報が読み取られる。
種族:ウルフ
え、これだけ? もっとこう弱点とか相手のスキルとかそういうのは?
「シエルさん、種族名しか読み取れないんですけど識別も、もしかして不遇なのでは?」
「識別はレベルが上がったら格段に読み取れる情報が増えるから不遇じゃない。それに最初から北のエリアに来てるからで東ならもっと読み取れるはず」
そうか、ここってどう考えても僕のステータスでは適正ではないのか。それにしても良かった。識別まで不遇となると初期スキルのほぼ全て不遇になるところだった。
「それじゃあ、今度こそ行ってきます」
多少距離があったからか、まだこちらを伺っているウルフたちの方へ足を向ける。
「ん、いってらっしゃい」
{え、ネージュくん1人で5匹相手するの!?}
{さすがにそれは無理w}
{シエルちゃん手伝ってあげた方が}
そんな風に言われていることも知らずに僕は刀を抜いて思考を戦闘用に切り替える。
相手は5匹。1対多の戦いで大事なのは囲まれないことだ。相手の方が数が多い以上囲まれるだけでものすごく不利になる。イメージとしては1対1を5回するイメージだろうか。
まあ、実戦ではそんなにうまくいくことは少ないが。
さて、相手はウルフということで4足歩行の動物だ。4足歩行の動物はその性質上前に進むのは速いが後ろに下がるのは苦手だ。そのため、こちらから間合いを詰めると相手はやりづらくなる。
僕は体を前に倒し、地面につく寸前で地面を音がなるほど強く蹴る。初速からいきなり最高速に達した僕は1番近い位置にいたウルフの首に刀を振るう。突然のことに反応できなかったウルフはその命を散らした。
その瞬間他のウルフが僕に向かって襲いかかる。その攻撃をいなしながらカウンターを喰らわせる。全ての攻撃を首に当てるのは理想だが連携して襲われると、それも不可能なので次点は足だ。機動力を奪って仕舞えばあとはただの的だ。
時には刀だけでなく蹴りなども利用しながら1匹ずつウルフを仕留める。戦い開始からわずか30秒足らずで僕は5体のウルフを倒すのだった。
「終わりました」
「ん、お疲れ。さすがの刀捌きだった」
「いえ、まだまだです。やっぱり2年は離れてたので結構腕が錆びついてます」
当時の僕が見たらバカにするであろうレベルの技だったので僕は落ち込みながらも、早く戻すために脳内反省会をする。
{え、これで錆びついてるの? 格上のエリアで5匹相手に1人で30秒程度で沈めておいて? え? は?}
{↑落ち着け。まあ気持ちはわかるが}
{予想より100倍以上ヤバかったw}
{しかも、アーツ使ってなかったよね?}
{リアルでも同じことできるってこと?}
{嘘つけよオイ、ヤバすぎだろw}
コメント欄でものすごく騒がれ、この後この戦闘シーンの切り抜きが話題になることも知らずに。
戦闘描写難しい。これからもっと頑張ります。