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89,入り組んだクーデター。


探索迷宮(ダンジョン)〉を経由して、王都へ戻る──その途中で、エマ王女と遭遇した。


「私の出番ですか??」


「あ、ごめん、エマ王女の出番じゃないよ。そっちの部屋でゴロゴロしていてくれる?」


 エマ王女、なぜか不貞腐れる。


「ゴロゴロするなんて、わたしのやり方ではないです!」


 なぜゴロゴロしていてと言われて、不貞腐れるのだろう。王女というのは不思議なものだ。〈探索迷宮(ダンジョン)〉の出口は、ひとまずアンバーが借りている部屋(私が引っ越すまではルームシェアしていたところ)にしておこう。その前に、まず王都内を同行するメンバーを、改めて構成。


「ユリシア、ポンコツ神、リスダン、ドラゴ、ローレライ、サラマンダー、ヨーナス、ガリーナ、アンジェラ、ここは出し惜しみなくいくよ」


 ユリシアが小首をかしげる。


「ポンコツ神って、誰ですの?」


「え? ああ、ヨグちゃんのこと」


 立ったまま眠っていたヨグが、ハッとしてガッツポーズをとる。


「あだ名が、できたっ」


「わたくしの、邪神へのイメージが崩れていきますわ」


「まぁ、スイッチ入ると、その邪悪度はこの世を破壊しつくすからね」とフォローしておく。


 というわけで、出し惜しみなしパーティで臨む前に、居残り組にも指示を出しておく。


「ダク、ビリーロストは、この〈探索迷宮(ダンジョン)〉を護って。それと、ビリーロスト。エマ王女を襲うんじゃないよ」


 ビリーロストは心外そうに言う。ピエロ面で言われても、ぴんとこないけども。


「オイラは女児を襲うような変態じゃないんですぜ。成熟した赤毛の女だけが、ターゲットなんですぜ」


「うん、いつか君とは道徳律というものについて、じっくり話し合おうね」


 王都に出る。


 ローレライから知らせがあった通り、なかなかどうしてクーデターという赴き。とりあえず、アンバーの住んでいる建物のある一帯は、予備軍のいち部隊によって遮断されていた。


 この予備軍というのは、退役軍人などからなる予備役とは違い、現役の精鋭ぞろいだ。

 決戦投入のための後方の備えであり、隠し玉という役割もある。

 といってもロゴス王国は長らく戦争していないのだから変な話だけども。


 かつてのある大戦にて。ロゴスは王都まで敵軍に攻め入られたが、そこで待ち構えていたロゴス予備軍がこれを撃破。

 その勢いで戦線を押し返し、逆転勝利へとつながった。

 それ以来、予備軍に精鋭部隊がまわされるのが、ロゴス王国軍の伝統となっている。まぁ精鋭といっても、長らくまともな戦争をしていない以上、実戦知らずの兵たちではあるけども。しかし今回、〈王の右手〉(かはまだ確証はないけども)は、そんな予備軍を使って、王政府を潰そうとしているわけだよね。


「だけど、〈王の右手〉にしては、ちょっとやりかたが乱暴だよね?」


 そばにいたユリシアがうなずく。


「さすがお姉さまですわ。もちろん、そのようなことも考えられます。つまり『〈王の右手〉がクーデターを指揮しているように見せかけている』というやり口です。この場合、考えられる理由は二つ。クーデターは失敗することを前提として、ただ〈王の右手〉を失脚させたいのか。またはすでに〈王の右手〉は亡き者にされており、〈王の右手〉の名を騙っている黒幕がいるのか。この黒幕からしてみたら、たとえクーデターに失敗したとしても、すべては〈王の右手〉に押し付けられるので、リスクはゼロといったところでしょう」


「そうそう。そういうことを、私は考えてみたんだよ」


 いや、そこまでは深読みして言ったわけじゃないけども、まぁそういうことにしておこう。

 ところで、私たちはけっこうな大所帯パーティだったので、すぐさま遮断中の予備軍部隊に見つかった。分隊がやってきて、軍曹が言った。


「とまれ。貴様、いまは戒厳令が出されている。家から出てはいけない」


 私は両手で、まてまてとしぐさをした。これは主に、ドラゴに対したものだ。すでにドラゴの拳は火を吹きそうだけども、この予備軍の兵たちは、ただ命令を聞いているだけなのだから。そう、私は平和主義。ドラゴのほかにも、いまにも火竜化して、あたりを焼き払いたそうなサラマンダーや、あくびしてやる気がないけど、スイッチが入ったら、この一帯を地獄にしてしまえる邪神などを、私はどうどうと抑えねばならないのだから。


「どうも。私は、オブリビオン大尉。ところであなたたち、これがクーデターということは知っているのかな?」


 軍曹は私の顔を知っていたようで、慌てて敬礼した。


「失礼いたしました、冥王へい、いえ、オブリビオン大尉。しかし、お言葉ですが、われわれはクーデター阻止のため、動いております。そのように命じられています」


「というと?」


「王太子殿下が国王陛下を弑逆し、その玉座を簒奪する計画だと。われわれはそれを阻止するのだと、そう命じられております」


 私はユリシアと顔をあわせた。


「なんだか、入り組んでいるようだね」


「そのようですわね」


「私、シンプルなのが好きなんだけど」


「シンプルとは程遠いものです、この世とは」


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