87,エルフじゃん。
骸骨魔導士は致命傷を受け、死んでしまった。骸骨だろうとも、死ぬのである。
私は合掌した。
「相手が悪かったよ。『時間停止』とかいうチート持ちが相手じゃ、さすがの骸骨魔導士だって、対処できなくて仕方ないよね。というか、ヨグがいなかったら詰んでたね。へんなところで、詰んでたね」
骸骨魔導士の死体は光の粒子となって消えていった。振り返ると、はじめに私の死霊戦士として召喚で来てくれたのだ。暴走した魔獣に殺されなかったのも、骸骨魔導士のおかげである。ありがとう、骸骨魔導士。
「〔冥王七人衆〕の一角が、こんなところで亡き者にされてしまったよ……この空位、誰を入れよう。悩む」
ユリシアが溜息まじりに言う。
「そんなことはどうでもよろしいのです、お姉さま。ここで骸骨魔導士を失ったことの痛手は、そこではありませんのよ。まずお姉さまの護衛がいなくなります。骸骨魔導士は、いざようの護衛要員として、それなりに信頼をもっていたのですが。確かにお姉さまの指摘どおり、今回ばかりは相手が悪かったですわね。ヨグでさえ、瞬殺できない敵でしたもの」
ヨグが、淡々として訂正する。
「ライラちゃんを護ることを最優先にしなければ、あの程度は瞬殺できた」
ユリシアはぶつくさ言っている。
「骸骨戦士の軍の指揮官でもあったのですがね。とはいえ、先日のラン要塞のときも現れない骸骨軍など、用などはないのかもしれませんが。しかしながら、指揮官不在は厳しいかと」
結局のところ、誰しも死ぬときは死ぬものだ。私もいつかは死ぬのだなぁ。私が死んだあと、ユリシアたちはどうなるのだろう。
「まぁ気を取り直していこうよー」
気を取り直したところ、頭取の執務室を発見。そこでは半裸のエルフと、筋骨隆々の男が事に励んでいた。つまり、性行為ですよ。
ユリシアが顔をしかめる。
「商売女ですわね、あれは」
「こらこら頭取さん。職務中にプロの方を入れるとは、何事かな」
私が注意したところ、頭取だと思っていた筋骨隆々の男が悲鳴を上げて、「すいません、すいません」と言って逃げて行った。残った半裸のエルフがデスク(先ほどまでは正しい使いかたをされていなかった)に腰かけて、足を組む。
「侵入者って、あんたたちのこと?」
えー、つまり、商売女ではなく商売男だったわけか。そして、こちらのエルフ美女さんが、リキュール地下銀行に君臨する頭取。確かに風格がある、たぶん。
ところでエルフ美女さんの、とんがった耳を眺める。あんまりじろじろ見ると失礼かもだけども。
「はじめまして。エルフとは、初めて会うよ」
「そうなの? まぁ意外なことじゃないかもねー。ロゴス王国じゃ、エルフの一族は多くないし」
「私たちがロゴスから来たのを知っているの?」
「エマ王女を連れてきたんでしょ? それで当人はどこにいるのかな?」
「ここには連れてきていないよ。エマ王女をどうするつもりだったのか、事情を聞いてからじゃないとね。それを聞き出すために副頭取を拉致ったわけだけども」
するとエルフ美女、頭取、その名は──執務机のネームプレートによると、アデライドは、楽しそうに笑った。
「副頭取? あんな男、詳しい事情は知らないよ。けど、今回は特別に、この私が教えてあげようか。エルフというのは、心が広いからね。侵入者に対しても、礼は尽くすものさ。ついておいで」
半裸のまま歩き出すアデライド。なんとなく、ガリーナと気があいそうだよね。いやそれとも、同族嫌悪的に仲が悪いかな。
ユリシアは警戒しながら、アデライドに問いかける。
「先ほど、こちらのほうから男が歩いてきましたが。魔眼の男です。あれは何者ですの?」
「魔眼の? あー、それはお得意さんだね。しかし顧客の情報を、そう簡単には教えられないなぁ」
「聞き出す方法ならば、いろいろとありますのよ」
「あいにくエルフは、痛覚を切れるから拷問に強いよ」
やがて昇降機のところに出た。アデライドが乗り込み、私とユリシア、退屈そうなヨグが続く。アデライドはヨグを眺めていたが、ふいに顔色が悪くなって、そっぽを向いた。邪神の正体に気付いた? それはエルフだからこそなのか、アデライドが特別なのか。やがて昇降機で降りた先で、さらに入り組んだ通路を進む。
ついに、ひとつの貸し金庫の前に出た。行き止まりの壁に埋め込まれている代物だ。
「これを開けるために、第三王女は『運搬』されてきたわけ」
私は、変哲のない(見た目は)貸し金庫の扉を叩いた。
「エマじゃないと開けられないの?」
「そうだよ、冥王さま。この貸し金庫は、特別な魔導が組み込まれているからね。何重にもわたる防衛魔導が。それは破壊することはできない。ただし、ある者だけが開けることができるわけ」
私、冥王と名乗ったっけ?
「エマ王女は、こんな貸し金庫のことを知らないと思うけども」
するとユリシアが、何かに気付いた様子で言った。
「遺伝子ですわね。エマ王女が受け継いだ遺伝子に反応するのですわ」
「ご名答」とアデライド。
私はヨグを見た。ヨグが変な顔をしている。
「どうしたの?」
「ライラちゃん。この金庫、作ったのは、わたし」
世界は広いようで狭いものだなぁ。
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