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85/215

85,傍若無人。

 

 リキュール国は、小国ながら、とても重要な国家である。


 それは銀行国家という側面にあり、首都にあるリキュール地下銀行には、各国の王侯貴族など重要どころが預けた、宝物が預けられている。

 それは物品だけではなく、他者の『弱み』などの情報も多くを占めるだろう。それらが、アリの巣状の地下銀行内にちらばっている、あまたの貸し金庫に保管されている。

 で、リキュールでは国家総出で、この地下銀行を護っているわけだ。


 それは安全神話となっていた──30秒前、なんかうちが壊しちゃったけども。


 副頭取が用意した精鋭兵を始末したのち。

 ユリシアは、副頭取の『爪切り』をしてあげた。いやたぶんそれは正しくは、『爪はがし』というべきなんだろうけども。

 3本の『爪はがし』で、副頭取は自分が知っている限りの、地下銀行内の地図を吐いた。


 だが、このアリの巣状の、まるでダンジョンのような地下銀行は、複雑怪奇。副頭取でさえ全容を知らないというのだから。


「ですがお姉さま、副頭取からの情報だけでも、かなり有益な情報を得ましたわ。ロゴスを中心として、覗いてみたい貸し金庫が80ほどありますので」


 副頭取が、『爪切り』された指から血をだらだら垂らしながら、叫んだ。


「こ、こんな傍若無人が、ゆ、許されてたまるかぁぁぁ!!」


 するとユリシアは、冷ややかに言うのだった。


「われわれは冥王陛下とその眷属たちですのよ。われわれが傍若無人に振る舞えぬ世界があるとしたら、それは『世界』ではありません。なぜならば、それは存在しないものだからですわ。お分かりですの、副頭取さん?」


 副頭取がぽかんと口を開けた。私もぽかんと口を開けた。ついでにリスダンは不可解そうな顔をし、ビリーロストは『いまのが意味不明だったのは自分だけ?』という顔をしている。邪神ヨグとドラゴだけが、うんうんとうなずいている。ちなみにサラマンダーは、疲れた顔でヨグを見つめていた。


 私はそんなサラマンダーに声をかける。


「とりあえずヨグの監視役は私が引き継ぐから、この副頭取を地上に連れていってくれる? エマ王女の件で、『詳しい事情』を聞きたいけど、どうやら後回しになりそうだから」


 サラマンダーは見るからにほっとした様子で、


「承知いたしました、冥王陛下。さぁ、下賤な人間、来なさい。ああ、それと。途中で誰かに助けを求めたら、あなたの首を生きたまま捥ぎますので」


 そして華奢な身体に似合わぬ膂力で、軽々と副頭取を持ち上げていった。ところでサラマンダーって、美女モードと火竜モード、どちらが『本物の姿』なのだろうね。しかし、そんなことを聞くのは野暮というものさ。


 サラマンダーが副頭取を連れて行ったところで、私はユリシアに確認した。


「ところで、これから私たちが起こす『金庫破り』を、大陸中で知れ渡ることになるのかな? それとも隠密裏に行う?」


「双方のパターンに、メリットはあります。『金庫破り』を隠密裏に行わえば、情報を取られた者たちはそのことを知ることもなく、なんらかの対処を講じる、ということもされません。

 ただ、わたくしは大々的に行うつもりですのよ。そうすれば、この大陸中のリキュール地下銀行の顧客たちは、戦々恐々とするでしょうから。自分が預けていた、ほかには知られては困る『情報』を、どこの何者かに取られてしまったのだ、と。恐怖を味わっていただくほうが、何かと都合がよろしいでしょう」


「あ、だけどそれだと、副頭取さんは『犯人』を知っているわけだよね。つまり、私たちだと」


「そうですわね」


「……えーと、どうするの?」


「ええ、ですから、お姉さま。最後にはサラマンダーさんに、首を引っこ抜いていただくだけのことですが」


「血も涙もないなぁ」


 するとユリシアは、頬をぽっと染めて、


「お姉さま。そんな、褒められると、わたくし恥ずかしいですわ」


 えーーーー。褒めたのかな、私は。

 うん、褒めたんだね。そういうことにしておこう。


 その後、ユリシアは、パーティを3つに分けることにした。といっても、そんなに人数はいないから、単独行動する者も出てくるけど。


「2つのパーティは、副頭取から得た情報をもとに、わたくしがピックアップした貸し金庫に向かい、中身を回収してください。ただこの情報だけでは、地下銀行の全容までは分かりません。そこで3つ目のパーティは、より上の情報源を探し、可能ならば尋問いたします」


「わけかたは?」


「『貸し金庫襲撃』組が、ドラゴ・ビリーロストとリスダン。二手にわかれて、貸し金庫の中身を持ちだすのです。ただ持ち運べきれなくなったならば、いったんこの部屋に来て、置いていくといいでしょう。最後にまとめて運び出しましょう。頭取を探すのは、お姉さまとわたくし、それと邪神さんでいきます」


 するとドラゴが挙手した。


「姐さん。邪神がいないんですが?」


 遠くのほうから、行員たちの悲鳴が響きわたってくる。

 ……。

 ユリシアはそちらを眺めてから、


「計画変更です。パーティを四つにわけます。リスダン、ドラゴ、ビリーロストが二手にわかれて、『貸し金庫襲撃』。お姉さまとわたくが『頭取を探す』。そして邪神ヨグは──『やりたい放題』。いかがでしょう、お姉さま?」


「んーー。いい計画だと思うよー」



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